ガッリエヌス

プブリウス・リキニウス・エグナティウス・ガッリエヌス：3世紀危機のローマ[[皇帝]]

プブリウス・リキニウス・エグナティウス・ガッリエヌス（218年頃 - 268年）は、ローマ帝国の皇帝として、253年から268年まで混乱の時代を治めました。エトルリア系の家系に生まれた彼は、父ウァレリアヌス帝と共に共同皇帝として即位、西方の防衛を担いました。しかし、260年、父帝がペルシア王シャープール1世に捕虜となったことで単独皇帝となり、未曽有の危機に直面することになります。

帝国の危機とガッリエヌスの対応

ウァレリアヌス帝の捕虜はローマ帝国の権威を大きく失墜させました。各地で皇帝を僭称する者（僭帝）が現れ、帝国は分裂の危機に瀕します。ガリアではポストゥムスがガリア帝国を建国、東方ではマクリアヌスらが独立を図りました。この混乱に乗じて、ゴート族などの蛮族が帝国領に侵入を繰り返します。

ガッリエヌスは、パルミラの有力者オダエナトゥスと同盟し、ペルシア軍を撃退するなど、危機打開に奔走しました。しかし、オダエナトゥス暗殺後にその妻ゼノビアがパルミラ帝国を樹立すると、帝国はガリア、パルミラと三つ巴の状態に陥ってしまいました。

こうした危機的状況下で、ガッリエヌスは積極的な対策を講じました。全国から騎士階級の騎兵を登用して軍の近代化を推進、蛮族対策に当たりました。ゲルマニア防壁のリメス・ゲルマニクスを放棄し、アラマンニ族に一定の地域での居住を許すという、当時としては異例な政策も採られました。しかし、これらの政策は、長期的な視点からは帝国の衰退を招く要因にもなったという評価もあります。

文武官分離と歴史的評価

ガッリエヌスは、軍人と文官のキャリアを分離したともいわれています。これは、伝統的なローマの文武両道のエリート育成システムを放棄したもので、元老院貴族の権力の低下と騎士階級の台頭を招いたと解釈されています。しかし、この政策（「ガリエヌス勅令」と呼ばれる）の存在そのものについて、史料的根拠が乏しく、激しい論争が現在でも続いています。

この政策の有無に関わらず、3世紀の危機においては、皇帝が軍隊と共に戦線に常駐するようになり、ローマ市に留まる元老院議員との関係が希薄化していました。その結果、皇帝と軍隊の結びつきが強まり、軍人出身の皇帝が増える傾向が強まりました。これは、ガッリエヌスによる政策というよりも、時代背景による政治体制の変化の結果であると言えるでしょう。

没落

ガッリエヌスは、各地の反乱鎮圧に尽力しましたが、268年、近衛軍団の裏切りにあい暗殺されました。15年に及ぶ治世は、軍人皇帝時代においては最長のものでしたが、彼の死は、3世紀危機の終焉を意味するものではありませんでした。

ガッリエヌスの業績と人物像

ガッリエヌスは、詩作や哲学にも造詣が深く、哲学者プロティノスとも交流があったと伝えられています。混乱の時代を生き抜いた皇帝としての彼の功績と、その複雑な人物像は、現代においても様々な議論を呼んでいます。帝国の危機的状況への対応策は、必ずしも成功したとは言えませんが、彼の試みが、後のローマ帝国の政治構造や軍制に影響を与えたことは間違いありません。

参考文献

クリス・スカー　青柳正規監修、月村澄枝訳『ローマ[[皇帝]]歴代誌』、創元社、1998年
Bray,John.Gallienus :A　study in reformist and sexual politics,us,wake field ,1999

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