パルミラ

パルミラ：シルクロードのオアシス都市と、内戦による破壊

概要

シリア砂漠の中央に位置するパルミラは、古くから「タドモル」と呼ばれていました。ナツメヤシのオアシス都市として発展し、地中海とメソポタミアを結ぶ交易路の中継点として繁栄しました。紀元前1世紀末から3世紀にかけて、シルクロードの隊商都市として最盛期を迎え、ローマ建築が立ち並び、東西文化が融合した独特の文化が花開きました。273年のローマ帝国による征服後、衰退しましたが、17世紀に遺跡が再発見され、観光地として発展しました。しかし、21世紀初頭のシリア内戦により、ISILによる破壊行為を受け、多くの遺跡や遺物が失われました。

地名

パルミラという名は、ギリシア語で「ヤシの木」を意味する「パルマ」に由来します。現地名「タドモル」の語源は諸説あり、古代セム語でナツメヤシの実を意味する「タマル」に由来する説や、景観や守備隊駐屯地に由来する説などがあります。旧約聖書には、ソロモン王が砂漠に「タデモル」の町を建設したと記されています。1世紀からはローマ人により「パルミラ」と公式に命名されました。

地勢と気候

パルミラは、標高約400メートルのオアシスに位置し、北西には山脈、東南部には砂漠が広がります。「エフカの泉」と呼ばれる湧水は灌漑や生活用水として利用されていましたが、1994年に枯渇しました。平均年間降水量は少なく、夏季は極暑・極乾、冬季は0度前後となる乾燥した気候です。

歴史

パルミラ周辺では旧石器時代からのヒトの痕跡が確認されています。紀元前19世紀のアッシリア語粘土板文書には「タドモル人」の名前が登場し、アムル人が支配していました。アケメネス朝ペルシア、セレウコス朝を経て、ローマ帝国のシリア属州の一部となりました。ナバテア王国がローマに併合されると、パルミラは通商権を引き継ぎ、さらに繁栄しました。

パルミラ帝国

260年、ローマ皇帝ウァレリアヌスがサーサーン朝ペルシアに捕虜になると、パルミラのオダエナトゥスがローマを支援し、勢力を拡大。その後、ゼノビアが女王としてパルミラ帝国を建国し、エジプトなども支配下に置きました。しかし、273年、ローマ皇帝アウレリアヌスによりパルミラは陥落し、破壊されました。

東ローマ帝国時代とイスラム帝国時代

東ローマ帝国時代にはベル神殿などがキリスト教会に転用されました。634年、イスラム帝国がパルミラを占領し、ウマイヤ朝、アッバース朝などの支配を受けました。11世紀の大地震の後、ほぼ放棄されましたが、その後再び重要拠点となり、ベル神殿はモスクに転用されました。

オスマン帝国時代と再発見

16世紀からはオスマン帝国の支配下となりましたが、17世紀に遺跡が再発見され、ヨーロッパ人による調査が始まりました。1753年、ロバート・ウッドの著書『パルミラの遺跡』は、ローマ建築研究に大きな影響を与えました。パルミラ文字も解読され、発掘調査も進みました。

フランス委任統治以降

第一次世界大戦後、フランス委任統治下で組織的な発掘調査と修復が行われ、1980年にはユネスコの世界遺産に登録されました。観光地として発展し、人口は増加しました。

21世紀とISILによる破壊

2011年のシリア内戦により、2013年に危機遺産に指定。2015年、ISILがパルミラを制圧し、多くの遺跡や遺物を破壊しました。2017年にシリア軍が奪還しましたが、遺跡への被害は甚大でした。現在も、破壊された遺跡の修復や調査が続けられています。

言語と文字

パルミラでは、アラム語のパルミラ方言と独自のパルミラ文字が用いられていました。ローマの影響からギリシア語も公用語として用いられ、碑文にはパルミラ語とギリシア語が併記されることも多かったです。

文化と美術

パルミラは、東西文化が融合した独特の文化を持っていました。建築様式はギリシア・ローマの影響が強いものの、メソポタミアやイランの様式も混在しています。彫刻は、丘陵地帯で採取された石灰岩に施され、彩色もされていました。地下墓地には、家族饗宴像などの浮彫りが施されています。パルミラの美術は、「パルティア美術」と称される独自の美術様式の一部と見なされています。

宗教

パルミラでは、ベル神を最高神とするベル三位神やバールシャミン三位神などが信仰されていました。ベルはメソポタミアのマルドゥクに由来する神で、太陽神ヤルヒボール、月神アグリボールと合祀されました。その他、多くの神々が祀られており、神名の記されていない祭碑も多く存在します。

遺跡

パルミラ遺跡は、約16.4平方キロメートルに及び、ベル神殿、ナボー神殿、バールシャミン神殿、アラート神殿、列柱道路、記念門、四面門、ローマ劇場、アゴラ、葬祭殿、ディオクレティアヌス城砦、ネクロポリス（墓地）など多くの建造物が残っています。

ネクロポリス

パルミラには、塔墓、地下墓、家屋墓など様々な形式の墓地があります。「墓の谷墓地」「西南墓地」「東南墓地」「北墓地」の4か所に分かれており、多くの墓から貴重な遺物が出土していました。

世界遺産

パルミラ遺跡は、2013年に危機遺産リストに登録されました。現在も、シリア内戦の終結と、破壊された遺跡の修復が待たれています。


参考文献

いくつかの専門書や論文を参考に記述しています。(本文中に記載の書籍は一部抜粋しています。)

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