3世紀の危機

3世紀の危機：ローマ帝国を揺るがした50年間の動乱

3世紀の危機とは、西暦235年から284年にかけて、ローマ帝国を襲った大規模な動乱とその時代を指します。セウェルス朝の終焉から始まり、軍人皇帝時代を経てディオクレティアヌスの即位に至るまで、帝国は内外からの圧力にさらされ、存亡の危機に立たされました。

前史：繁栄から衰退へ

2世紀のネルウァ＝アントニヌス朝（五賢帝時代）は、ローマ帝国の黄金期でした。しかし、コンモドゥスの悪政によってこの時代は終わりを告げ、ローマ内戦を経てセウェルス朝が成立します。セウェルス朝は、軍事政権的な側面が強く、既に帝国の衰退の兆しが見え始めていました。

軍人皇帝の乱立：権力の空白と絶え間ない争い

235年、セウェルス朝はクーデターによって崩壊し、「軍人皇帝時代」と呼ばれる混乱の時代が始まりました。明確な皇帝選出のルールがない中、軍の支持を得た無数の軍人皇帝が次々と台頭し、短期間で廃位・暗殺されることも珍しくありませんでした。正式な皇帝だけでも21人、僭称皇帝を含めると40人を超える皇帝が即位したと言われています。元老院は、軍が推戴した皇帝を承認するだけの存在となり、帝国の権威は地に堕ちました。

混乱の原因：軍事力と権力闘争

皇帝の乱立の主な原因は、皇帝選出に関する明確なルールがないことでした。ローマでは、共和政時代から国家元首が軍の最高司令官を兼ねる体制がとられていました。しかし、皇帝は終身職であり、無能な皇帝を容易に更迭することはできませんでした。そのため、愚帝を排除するには暗殺やクーデターといった手段に頼らざるを得ませんでした。セウェルス朝の軍事政権的な性質や、異民族の侵入の激化も、軍の皇帝選出への影響を強めました。結果として、軍事力さえあれば皇帝になれる状況となり、各地で権力争いが頻発しました。

エデッサの戦い：帝国の威信失墜

260年、ウァレリアヌス帝はエデッサの戦いでペルシア軍に捕虜となりました。これは、ローマ帝国の威信を大きく失墜させる出来事でした。

異民族の脅威：ゲルマン人とペルシアの侵攻

3世紀のローマ帝国は、北方からのゲルマン民族と東方からのサーサーン朝ペルシアの侵攻という二重の脅威にさらされました。気候変動や人口増加などによりゲルマン民族の侵入は激化し、ガリア、イリリクム、ダキアなど、北方の国境は危機に瀕しました。251年のアブリットゥスの戦いでは、デキウス帝と共同皇帝が戦死するという屈辱的な敗北を喫しました。

一方、サーサーン朝ペルシアは、アルダシール1世、シャープール1世と、積極的な対ローマ政策をとりました。244年のミシケの戦いではゴルディアヌス帝が戦死、260年のエデッサの戦いではウァレリアヌス帝が捕虜となりました。しかし、パルミラの総督オダエナトゥスはペルシア軍に大勝し、侵攻を一時的に食い止めました。

帝国の分裂：ガリア帝国とパルミラ帝国

エデッサの戦いの敗北は、帝国の弱体化を露呈させ、「三十人僭帝」と呼ばれる多くの僭称皇帝を生み出しました。260年には、ガリアの属州総督ポストゥムスがガリア帝国を、パルミラのゼノビアがパルミラ帝国を建国し、ローマ帝国は三分されました。

アウレリアヌスによる再統一：世界の修復者

270年から275年にかけて、アウレリアヌス帝は卓越した軍事力でガリア帝国とパルミラ帝国を征服し、帝国の再統一を果たしました。彼はゲルマン民族との戦いでも功績を残し、「世界の修復者」と呼ばれました。しかし、再統一後まもなく暗殺されてしまいます。アウレリアヌスは、防衛困難なダキア属州の放棄や、アウレリアヌス城壁の建設といった政策も行いました。

混乱の終息と新たな体制：ディオクレティアヌスとドミナートゥス

284年、ディオクレティアヌスが皇帝に即位すると、帝国の混乱は終息に向かいました。ディオクレティアヌスは、帝権を強化し、政体をプリンキパトゥス制からドミナートゥス制（専制君主制）へと変革しました。また、テトラルキア（四分統治制）を導入し、帝国を東西に分割して統治しました。これにより、帝国は効率的な統治体制を確立し、新たな時代へと向かっていきました。

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