ガラテイア (ギュスターヴ・モロー)

ガラテイア

『ガラテイア』（仏: Galatée, 英: Galatea）は、1880年にフランスの象徴主義画家ギュスターヴ・モローによって制作された絵画です。この作品は、ギリシア神話におけるガラテイアとポリュペモスの物語をテーマにしており、モローの晩年を代表する作品の一つです。また、この作品はモローがサロンに出品した最後の作品でもあります。

主題

作品の中心となる女性像、ガラテイアは、ギリシア神話に登場する海のニンフ（ネレイス）です。オウィディウスの『変身物語』によれば、ポリュペモスという巨人はガラテイアに恋をし、求愛しますが、彼女には恋人アーキスがいたため、ポリュペモスの心を動かすことはできませんでした。嫉妬に駆られたポリュペモスはアーキスを殺害するものの、ガラテイアの願いによってアーキスは河神として蘇るのです。

作品の内容

『ガラテイア』では、洞窟内に座るガラテイアと、その様子を見守るポリュペモスが描かれています。ガラテイアはその名の通り乳白色の肌を持ち、洞窟の暗い環境の中で白い裸体が際立っています。彼女は物憂げな表情を浮かべながら岩に寄りかかり、長い髪をかきあげています。一方、ポリュペモスは岩にもたれながらわずかな隙間からガラテイアをじっと見つめています。この描写では、ポリュペモスは一つ目の巨人として知られていますが、モローの作品では三つ目の巨人として描かれており、彼の心の葛藤も伝わってきます。

モローの作風は神話の伝統的な描写とは異なり、ポリュペモスの野蛮さや滑稽さを排除し、彼が抱える恋の苦悩を描くことで、より深い感情を引き出しています。特に作品内には、海藻や珊瑚といった豊富な海洋生物が描かれており、これによりガラテイアの白い肌が際立ち、全体に幻想的な雰囲気が漂っています。

画面構成の過程

作品の構図に関しては、モローが当初悩んでいた様子が伝わっています。彼の習作には異なる構図が残されており、ポリュペモスは画面の右上からガラテイアを見下ろす形で描かれていました。最終的には、ガラテイアのポーズが以前の作品『妖精とグリフォン』や『女とグリフォン』とほぼ同じ形になり、ポリュペモスは画面の奥から覗くような形に落ち着きました。このように、作品は異なるバリエーションが存在しながらも、基本的な構図は一貫していくつかのヴァリアントに引き継がれています。

テーマの考察

『ガラテイア』におけるテーマは、他の作品とも関連性があり、神秘的な女性たちが描かれた洞窟の内部という設定によって、俗世間からの隔離を表現しています。モローはこの女性たちを才能や偉業に対する報酬としての存在と捉えていました。この作品では、ガラテイアがポリュペモスの欲望の象徴となっていますが、その存在は手の届かない場所にある宝物として描かれており、彼女とポリュペモスの間の距離感が強調されています。

評価と歴史

『ガラテイア』は1880年のサロンに出品された際、瞬く間に批評家たちの称賛を受けました。その後、モローが審査員を務めた1889年のパリ万国博覧会にも展示され、美術史家やコレクターであるエドモンド・タイニーが所有することになります。タイニーの一族が所有していた1940年代までは彼のコレクションの一部として存在しましたが、1951年から1991年までは美術評論家ロベール・ルベルが所有することになり、その後1997年にオルセー美術館に収蔵され、今日に至っています。

この作品はまた、オディロン・ルドンの『キュクロプス』との関連も指摘されており、ルドンはモローの影響を受けていると言われています。モローとの共通テーマとなる作品群を制作しており、ガラテイアとポリュペモスの物語はその一例です。

ヴァリアント

モローによるヴァリアントとしては、ギュスターヴ・モロー美術館所蔵の水彩画『ガラテイアとポリュペモス』（1880年頃）や、フォッグ美術館、ティッセン＝ボルネミッサ美術館所蔵の水彩画『ガラテイア』（1896年）が知られています。これらの作品は、ガラテイアとポリュペモスの位置関係に異なる視点を与えながら描かれており、特にフォッグ美術館の作品ではより遠景からポリュペモスがガラテイアを見つめる姿が表現されています。

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