キサース

キサースについて

キサース（アラビア語: قصاص, ラテン文字転写: qiṣāṣ）は、イスラーム法において定められた刑罰の一つであり、特に殺人や傷害に関わるケースに適用されます。この制度では、被害者が受けた苦痛と同様の苦痛を加害者に与えること、すなわち同害報復の原則に従って行動します。

具体的には、殺人事件の場合、被害者の遺族は裁判官、いわゆるカーディーの前で、キサースによる死刑を求めるか、ディヤ（血の代償金、ディーヤとも）という賠償金を受け取るかの選択をする権利を持ちます。傷害事件においても同様に、加害者に対して同じ傷害を与える権利や、その代わりにディヤを要求することができます。この選択権は、遺族が求める正義と加害者への報復の間で重要な役割を果たします。

このキサースの制度は、イスラーム以前のアラビアにおいて一般的だった私的復讐の文化から発展してきました。当時の復讐は往々にして限界を知らず、長期にわたる争いを引き起こすこともありました。そこで、キサース刑は復讐の原則に基づきながら、公権力の監視下で実施されることで、争いを制御し、社会の秩序を保つ意図があったと考えられています。また、クルアーンの中には、ディヤで満足することがキサースを要求することよりも推奨されるという記述も存在します。

キサースによる刑罰は、主に殺人や傷害の犯罪に限定されているため、婚外セックスや同性セックス、イスラームからの離脱に対する厳しい罪とされるハッド刑と比較した場合、現代の人権の観点からはそれほど極端なものではないと見なされています。特に、死刑の執行に関しては、遺族の意思が主な要因とされ、彼らが許す限り死刑は実行されないという特異な点があります。このことは、他の法体系においては見られないようなプロライフの視点を反映しています。

しかし、現代刑法の観点からは、囚人に対して人体的な損傷を強いるキサースが過酷な刑罰として批判されることも少なくありません。これは、特に死刑廃止を求める側からは強く反対される要因の一つです。キサースの制度には賛否が分かれるものの、その特異性と倫理的根拠のため、さまざまな議論を呼び起こしています。

関連項目

• - ハンムラビ法典
• - ハッド刑
• - ディヤ（口語発音：ディーヤ）
• - 目には目を

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