キシラン

キシラン

キシラン（xylan）は、炭水化物の一種である多糖類であり、その基本となる分子式は (C5H8O4)n と表されます。この分子は、β1-4グリコシド結合によって連結されたキシロース（C5H10O5）単位が主鎖を形成しており、その主鎖に対して様々な糖やアシル基などの側鎖が結合したヘテロ多糖として存在します。天然においては、主にアラビノースが側鎖として結合したアラビノキシランや、グルクロン酸が側鎖として結合したグルクロノキシランといった形態で広く見られます。

キシランは、特に植物の細胞壁を構成するヘミセルロースの主要な成分の一つとして知られており、植物バイオマスのかなりの部分を占めています。木材や穀物の殻、草本植物など、様々な植物組織に豊富に含まれています。CAS登録番号は [9014-63-5] です。

生合成

植物体内でのキシランの生合成プロセスは複雑であり、様々な酵素が関与しています。

生分解

自然界において、キシランは主に微生物によって分解されます。この分解過程には、いくつかの種類の酵素が協調して作用します。

1. 主鎖の切断: 微生物によって産生されるエンドキシラナーゼと呼ばれる酵素は、キシランの主鎖であるβ1-4キシロシド結合をランダムな位置で加水分解する働きを持ちます。これにより、キシラン分子はより短いオリゴ糖へと断片化されます。

2. 単糖への分解: 主鎖が切断されてできたオリゴ糖の非還元末端からは、キシロシダーゼという酵素が作用し、個々のキシロース単位を順次切り離していきます。これにより、キシロースが遊離します。

3. 側鎖の除去: キシランに結合している多様な側鎖は、主鎖の分解を阻害することがあります。これらの側鎖は、アセチルエステラーゼ、アラビノフラノシダーゼ、グルクロニダーゼといった様々な特異的な酵素によって効果的に除去されます。例えば、アラビノフラノシダーゼはアラビノース側鎖を、グルクロニダーゼはグルクロン酸側鎖を、アセチルエステラーゼはアセチル基をそれぞれ切り離します。これらの酵素の働きにより、キシランは完全に分解され、単糖類やその他の低分子化合物になります。

産業的利用

キシランは、その構造や性質から様々な産業分野での利用が期待されています。中でも重要なのは、甘味料であるキシリトールの生産原料としての利用です。

シラカバ（白樺）やトウモロコシの穂軸、バガス（サトウキビの搾りかす）のような、キシランを豊富に含む特定の植物資源は、工業的なキシリトール生産の原料として用いられます。これらの資源から得られたキシランは、酸加水分解や酵素分解といった方法によってキシロースへと分解されます。得られたキシロースは精製された後、還元反応によってキシリトールに変換されます。キシリトールは、砂糖と同程度の甘味を持ちながら非う蝕性であることから、ガムやキャンディ、歯磨き粉などの食品やオーラルケア製品の添加物として広く利用されています。

その他にも、キシランやその分解物は、バイオ燃料生産における前処理プロセスや、機能性食品素材、生分解性プラスチックの原料など、様々な用途での研究開発が進められています。植物バイオマス由来の再生可能な資源であるキシランは、持続可能な社会の実現に向けた重要な資源の一つと考えられています。

もう一度検索