キス・オン・ザ・ボトム

キス・オン・ザ・ボトム

『キス・オン・ザ・ボトム』（英語: Kisses on the Bottom）は、イギリスのミュージシャン、ポール・マッカートニーが2012年に世に送り出した音楽アルバムです。この作品は、彼のキャリアの中でも異色ともいえるジャズ・スタンダードのカバーを主体としており、12曲のジャズの名曲に加え、彼自身が書き下ろした2曲のオリジナル新曲が収められています。

制作背景

本作の制作にあたっては、プロデューサーのトミー・リピューマの推薦により、著名なジャズピアニストであるダイアナ・クラールが重要な役割を担いました。彼女はピアノ演奏だけでなく、多くの楽曲でリズムアレンジも手がけています。レコーディングには、クラールのツアー・バンドの主要メンバーであるロバート・ハースト（ベース）とカリエム・リギンス（ドラムス）、そしてジョン・ピザレリ（ギター）らが中心となって参加。さらに、ジョン・クレイトン、ジェフ・ハミルトン、アンソニー・ウィルソンといった、過去にクラールとのレコーディング経験を持つミュージシャンも演奏に加わりました。

また、ジャズやフュージョンの分野で知られるマイク・マイニエリ、クリスチャン・マクブライド、ヴィニー・カリウタといったプレイヤーも参加し、アルバムに厚みを与えています。特筆すべきは、ギターのエリック・クラプトンやハーモニカのスティーヴィー・ワンダーといった、ジャンルを超えた世界的スターがゲスト参加している点です。

収録曲の選定は、マッカートニー、リピューマ、クラールの三者によって行われました。この過程で、「もう望めない (More I Cannot Wish You)」のように、マッカートニー自身がそれまで馴染みのなかった楽曲も候補として挙げられています。本作のためのレコーディング・セッションでは、合計24曲が録音されましたが、最終的にアルバム本編にはそのうち14曲が収録されました。後にリリースされたデラックス・エディション盤には、ウイングス時代の楽曲「ベイビーズ・リクエスト」のセルフカバーと、フランク・シナトラの歌唱で知られる「マイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴ」の2曲がボーナス・トラックとして追加されています。

マッカートニーのオリジナル楽曲の一つである「マイ・ヴァレンタイン」は、2011年に彼の妻となるナンシー・シェベルとモロッコで休暇を過ごしていた際の会話にインスピレーションを受けて作曲されました。この曲は、アルバムの正式タイトルが発表される前の2011年12月に先行シングルとしてリリースされ、話題を呼びました。

商業的な成功と評価

『キス・オン・ザ・ボトム』は、批評家からの評価もさることながら、商業的にも大きな成功を収めました。全英アルバムチャートでは3位にランクインし、これは1997年のアルバム『フレイミング・パイ』以来、15年ぶりのトップ3入りという快挙となりました。オーストリアのアルバム・チャートでも4位を獲得し、1993年の『オフ・ザ・グラウンド』以来19年ぶりにトップ5圏内に入っています。

特にアメリカでは、主要なアルバムチャートであるBillboard 200で5位を記録しただけでなく、ジャズ・アルバム・チャートでは見事に1位に輝きました。そして、このアルバムは第55回グラミー賞において、最優秀トラディショナル・ポップ・ボーカル・アルバム賞を受賞し、その音楽性が高く評価されました。

収録曲

本作には以下の楽曲が収録されています。

1. 手紙でも書こう - "I'm Gonna Sit Right Down and Write Myself a Letter"
2. ホーム - "Home (When Shadows Fall)"
3. イッツ・オンリー・ア・ペイパー・ムーン - "It's Only a Paper Moon"
4. もう望めない - "More I Cannot Wish You"
5. グローリー・オブ・ラヴ - "The Glory of Love"
6. ウィ・スリー - "We Three (My Echo, My Shadow and Me)"
7. アクセンチュエイト・ザ・ポジティヴ - "Ac-Cent-Tchu-Ate the Positive"
8. マイ・ヴァレンタイン - "My Valentine"
9. オールウェイズ - "Always"
10. マイ・ヴェリー・グッド・フレンド・ザ・ミルクマン - "My Very Good Friend the Milkman"
11. バイ・バイ・ブラックバード - "Bye Bye Blackbird"
12. ゲット・ユアセルフ・アナザー・フール - "Get Yourself Another Fool"
13. インチ・ワーム - "The Inch Worm"
14. オンリー・アワ・ハーツ - "Only Our Hearts"

デラックス・エディション盤には、上記に加えて以下のボーナス・トラックが追加収録されています。

15. "Baby's Request"
16. "My One and Only Love"

主な参加ミュージシャン

このアルバムの制作には、ポール・マッカートニー（ボーカル）を中心に、以下をはじめとする錚々たるミュージシャンが参加しました。

ダイアナ・クラール - ピアノ、リズム・アレンジメント
ジョン・ピザレリ - ギター
ロバート・ハースト - ベース
カリエム・リギンス - ドラムス
マイク・マイニエリ - ヴィブラフォン
エリック・クラプトン - ギター
スティーヴィー・ワンダー - ハーモニカ
ロンドン交響楽団

クラールとそのバンドメンバーに加え、バッキー・ピザレリ、アンソニー・ウィルソン、ジョン・クレイトン、ジェフ・ハミルトン、アイラ・ネプス、クリスチャン・マクブライド、タミール・ヘンデルマン、ジョン・チオディニ、チャック・バーゴファー、ヴィニー・カリウタといった、ジャズや各分野の精鋭たちが多数参加し、ポール・マッカートニーの新たな音楽世界を支えています。

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