キット・ランバート

キット・ランバート：ザ・フーを育てた音楽業界の異才

キット・ランバート（Christopher Sebastian Lambert, 1935年5月11日 - 1981年4月7日）は、イギリスの音楽業界で重要な役割を果たした人物です。特に、ロックバンド、ザ・フーのマネージャー兼音楽プロデューサーとしての功績は広く知られています。

生い立ちとザ・フーとの出会い

ロンドンの裕福な家庭に生まれたランバートは、著名な作曲家・指揮者であった父コンスタント・ランバートの影響を受け、芸術に囲まれた環境で育ちました。しかし、10歳の時に両親が離婚し、その後は母親とその再婚相手の元で生活を送ります。父コンスタントは離婚後、不遇な晩年を送り、ランバートが16歳の時に45歳で亡くなりました。

オックスフォード大学トリニティ・カレッジを卒業後、パリの映画学校で映画制作を学んだランバートは、助監督として働き始めます。そこで、後にザ・フーのマネージャーとして共に活動することになるクリス・スタンプと出会いました。スタンプは労働者階級出身でしたが、兄が俳優のテレンス・スタンプであり、ショービジネスの世界に繋がりを持っていました。

1960年代、イギリスとアメリカでブリティッシュ・ビート・ブームが起こると、ランバートは有望なロックバンドのドキュメンタリー映画を制作することを思い立ち、スタンプと共にイギリス中のクラブを巡り、無名のバンドを探し始めました。

そして1964年7月、ランバートはザ・フーと出会います。当時、ザ・フーはピート・タウンゼント、ロジャー・ダルトリー、ジョン・エントウィッスル、キース・ムーンという4人のメンバーで構成され、ドアノブ業者のマネジメントの下、「ザ・ハイ・ナンバーズ」という名前で活動していました。ランバートは彼らのステージに圧倒され、スタンプと共にマネジメント契約を結ぶよう説得。メンバーは当初疑念を抱いていましたが、最終的にはランバートとスタンプがマネジメント権を獲得し、バンド名をザ・フーに戻しました。

マネージャーとしての手腕

ランバートとスタンプは、ザ・フーをEMIのオーディションに導き、キンクスのプロデューサーであったシェル・タルミーとの契約を取りまとめました。1965年には、ブランズウィック・レコードから「アイ・キャント・エクスプレイン」で再デビューを果たし、全英8位のヒットを記録。さらに、「マイ・ジェネレーション」が全英2位の大ヒットとなり、ザ・フーは一躍スターダムにのし上がりました。

ランバートは、ピート・タウンゼントの作曲の才能を見抜き、レコーダーを買い与えるなどして、彼の才能開花を促しました。タウンゼントはランバートを兄のように慕い、彼の指示には忠実に従ったと言われています。また、ランバートは、ザ・フーが楽曲の版権を巡る裁判で不利な状況に立たされた経験から、プライベートレーベル「トラック・レコード」を設立し、ザ・フーを移籍させました。トラック・レコードは、ザ・ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスなど、多くの才能あるアーティストを輩出しました。

音楽プロデューサーとしての貢献

シェル・タルミーとの決別後、ランバートはザ・フーの音楽プロデューサーを兼任することになりました。彼は、ザ・フーの音楽に大きな影響を与え、クラシック音楽の知識を生かして、タウンゼントにヘンリー・パーセルのレコードを聴かせるなど、彼の作曲家としての才能を刺激しました。組曲風の構成を持つ「クイック・ワン」や、ロックオペラというジャンルを確立したアルバム『トミー』の制作にも深く関わり、その成功に大きく貢献しました。

ザ・フーとの決別と晩年

しかし、1970年代に入ると、ランバートのドラッグの使用が深刻化し、ザ・フーのメンバーとの関係が悪化。新作ロック・オペラ『ライフハウス』の制作は頓挫し、ランバートはプロデューサーとしての役割を果たせなくなっていきました。1973年には、アメリカでの収益からの印税がメンバーに支払われていないことが発覚し、タウンゼントらはランバートとスタンプを告訴。1975年、ランバートはザ・フーのマネージャーを解任され、トラック・レコードも事業を清算しました。

その後、ランバートは音楽業界から身を引き、実家の大邸宅に引きこもるようになります。同性愛者であった彼は、美少年たちを侍らせ、酒とドラッグに溺れる自暴自棄な生活を送りました。1981年、彼はドラッグを摂取して意識が朦朧とした状態で自宅の階段から転落し、頭を強打。4月7日に病院で亡くなりました。奇しくも、父コンスタントと同じ45歳という若さでした。

人物像と遺産

キット・ランバートは、周囲を常に笑いで包む一方で、感情の起伏が激しい人物でした。彼の無軌道な言動は数々のエピソードを生み出しています。しかし、タウンゼントにとって、ランバートは単なるマネージャーやプロデューサーではなく、自身の創造性を広げてくれる必要不可欠な存在でした。ランバートの死後、タウンゼントは彼に捧げる十四行詩を書いています。

ランバートは、父コンスタントの不遇の死を深く悲しみ、その名誉回復を強く願っていました。アルバム『トミー』の成功は、彼にとって父への復讐であり、名誉回復の手段だったと言えるでしょう。

2014年には、ランバートとスタンプのマネージメントに焦点を当てたドキュメンタリー映画『ランバート・アンド・スタンプ』が公開され、彼の功績と人間性に改めて光が当てられています。

キット・ランバートは、ザ・フーを世界的な成功に導いただけでなく、ロック音楽の歴史に大きな足跡を残した人物として、今後も語り継がれていくでしょう。

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