キニーネ

キニーネについて

キニーネ（quinine）は、南米のキナの樹皮に由来するアルカロイドで、分子式はC20H24N2O2です。この化合物は1820年に初めて単離され、1908年にはその平面構造が明らかにされました。キニーネは特にマラリア原虫に対する特効薬としての役割を果たしており、歴史的に見ても非常に重要な位置づけを持っています。

発見と歴史

キナ属の植物は、南米のアンデス山脈に自生しており、古くから原住民はその樹皮を用いて熱病の治療を行っていました。マラリアは元々アメリカには存在しませんでしたが、ヨーロッパ人の渡来により広がりました。1640年ごろ、キナ樹皮の抗熱効果がヨーロッパに知られるようになり、以降、キニーネによる治療法が確立されました。特に、チンチョン伯爵ルイス・ゼロニモ・メンドーサの妻がキナ皮を用いたことが契機となっています。

18世紀中頃からは、キナ樹皮から活性成分を抽出しようとする試みが始まりました。フランスの科学者アントワーヌ・フールクロアやポルトガルの軍医ベルナルディーノ・アントニオ・ゴメスによる研究で、初めてキニーネとその異性体であるシンコニンが分離されます。この研究を経て、1820年にキニーネは抗マラリア活性を有する物質であることが明確化されました。

構造の特定

キニーネの構造は、1854年にアドルフ・ストレッカーによって提案され、その後1870年代までにビニル基やキノリン構造の存在が確認されていきました。その後の研究により、1908年にようやくキニーネの正確な平面構造式が確立し、さらに1944年にはその絶対立体配置も特定されています。

合成とその意義

キニーネの合成に初めて挑んだのはウィリアム・ヘンリー・パーキンで1856年のことでしたが、実際の合成は1918年にラーベとキンドラーが行った合成法が初めてとして知られています。1944年にはロバート・バーンズ・ウッドワードとウィリアム・デーリングがこの化合物の全合成を達成しました。この成果は当時のマラリア流行に対処するための重要な技術であり、化学合成の発展にも寄与しました。

用途

キニーネは主に抗マラリア薬として使用されており、特異的にマラリア原虫に対する毒性を持っています。赤血球内でヘモグロビンを代謝する際に生成される有毒なヘムをキニーネが抑制することで、原虫の成長を阻害します。特に第二次世界大戦の頃、米国などでは野戦病院での使用が一般的になりました。しかし、キニーネには副作用が点在し、副作用を軽減するために人工的な抗マラリア薬が開発されていきました。今日では、これらの新薬に対する薬剤耐性が問題視されており、再びキニーネの利用が注目される場面もあります。

特徴とその他の用途

キニーネはその強い苦味でも知られ、苦味の基準物質として味覚研究において用いられます。また、有機化学分野では光学分割剤としての利用もされています。食品添加物としても認められていますが、劇薬とは異なるため、消費される場面が多いです。

キニーネはマラリア治療において重要な役割を果たしてきただけでなく、化学研究や食品産業にも幅広く応用されています。

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