キュチュク・カイナルジ条約

キュチュク・カイナルジ条約

キュチュク・カイナルジ条約（Küçük Kaynarca Antlaşması）は、1768年から1774年にかけてオスマン帝国とロシア帝国の間で繰り広げられた第一次露土戦争の終息をもたらした重要な講和条約です。この条約は1774年7月21日に現在のブルガリア北部、カイナルジャにて締結されました。

戦争の背景

第一次露土戦争の発端は、1768年12月にクリミア・タタールがロシア帝国南部を侵攻したことによります。この戦争は、女帝エカチェリーナ2世が統治するロシアにとって有利に進展し、オスマン帝国の反撃が続きました。オスマン帝国は、クリミア・ハン国に対する宗主権を長年保持していましたが、ロシアの進攻に対抗できず、劣勢に陥ります。

条約の締結

戦争が進展する中、ロシア帝国は戦局を優位に進め、1774年に講和が成立する運びとなりました。カイナルジャにて結ばれたこの条約によって、ロシアは短期間で広範な領土を手に入れることになりました。

条約の主な内容

キュチュク・カイナルジ条約の重要なポイントは、ロシア帝国が広大な領域を獲得したことです。具体的には、ブグ川とドニエプル川の間の地域や、ケルチ要塞とアゾフ地域がロシアの管理下に置かれ、これにより黒海へのアクセスが確保されました。特にロシアにとっての利点は、黒海における艦隊の建造権とボスポラス海峡・ダーダネルス海峡における商船の自由通航権を得たことです。

この条約により、ロシアは農産物の輸送経路を確保し、ドン川とドニエプル川は重要な物流路として機能することとなりました。また、ロシアの勢力拡大を推進したのは、女帝エカチェリーナ2世の寵臣であるグリゴリー・ポチョムキンの存在でした。彼は、ウクライナ近接地域の開発を率先して進め、国境の防衛も担いました。

さらに、条約ではオスマン帝国がクリミア・ハン国の支配を放棄し、ワラキアとモルダヴィアがロシアの保護下に置かれるとともに、オスマン帝国内の正教会信徒を保護する権利がロシアに与えられました。この正教会信徒の保護は、後にロシアによる内政干渉の理由付けとして利用され、バルカン半島におけるロシアの影響力拡大に寄与しました。

条約締結後の影響

キュチュク・カイナルジ条約は、ロシアの南下政策に新たな局面をもたらし、黒海地域の安定をめぐる問題、「東方問題」と呼ばれる国際的な課題を生むことになりました。ロシアの影響力が増す中、オスマン帝国の地位は徐々に低下していくこととなり、これ以降のバルカン半島における分裂と権力争いの土台が築かれました。

このように、キュチュク・カイナルジ条約は、ロシア帝国の拡大とオスマン帝国の衰退という、18世紀の歴史における重大な転機の一つとなったのです。

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