キュプセロス (僭主)

キュプセロス：コリントスの僭主とその波乱の人生

キュプセロス（紀元前7世紀）は、古代ギリシアのコリントスを支配した、特異な僭主として知られています。彼の生涯は、予測不能な出来事と、驚くべき政治的策略に満ち溢れていました。

キュプセロスは、コリントスの有力一族バッキアダイに属するラブダの子として生まれました。しかし、彼の誕生は予期せぬ影を落とします。デルフォイの神託は、彼の命を脅かす不吉な予言を告げたのです。

赤ん坊のキュプセロスは、バッキアダイの者たちによって暗殺されそうになります。刺客たちはラブダに赤ん坊を見せろと迫り、キュプセロスを抱いた瞬間、彼の無邪気な笑顔に心を奪われ、殺害をためらいました。一度は退散した刺客たちでしたが、再び襲いかかってきます。危機を察知したラブダは、機転をきかせ、キュプセロスを櫃の中に隠して難を逃れました。この出来事から、彼は「キュプセロス」（櫃の中の者）と名付けられたのです。

この危機を乗り越えたキュプセロスは成長し、やがて驚くべき行動に出ます。紀元前657年、彼は策略を用いてバッキアダイの者たちをコリントスから追放し、自らが権力を掌握します。このクーデターの成功には、ゼウスへの誓約が重要な役割を果たしました。キュプセロスは、政権を掌握したらコリントス市民の全財産を神に奉納すると約束したのです。

権力を握ったキュプセロスは、市民に財産を申告させ、その10分の1をゼウスに奉納しました。彼はこの行為を10年間続け、約束を果たしました。驚くべきことに、彼はコリントス市民を完全に貧困に陥れることなく、この大規模な奉納を成し遂げたのです。

キュプセロスの統治は、その独裁的な側面も持ち合わせていました。多くの市民が殺害されたり、追放されたり、財産を没収されたりと、苛烈な支配ぶりも見せました。しかし、同時に彼は民衆の支持を得るための努力も怠りませんでした。例えば、彼は護衛兵を置かず、民衆に近づきやすい姿勢を保ったと言われています。

32年に及ぶキュプセロスの統治は、紀元前625年に彼の死によって幕を閉じました。彼の跡を継いだのは、彼の息子ペリアンドロスでした。キュプセロスの生涯は、古代ギリシアの歴史において、権力闘争と政治的駆け引き、そして民衆への対応という複雑な要素が絡み合った、興味深い一例として位置づけられています。彼の治世は、コリントスの発展に大きな影響を与えただけでなく、後の僭主政治にも影響を与えたと言えるでしょう。彼の物語は、古代ギリシアの政治と社会の複雑さを理解する上で、重要な手がかりを与えてくれます。 キュプセロスの功績や暴政、そしてその後のペリアンドロスの統治については、アリストテレス、パウサニアス、プルタルコス、ヘロドトス、ポリュアイノスといった古代の歴史家たちの記録によって、その詳細が後世に伝えられています。これらの歴史家の著作は、キュプセロスという人物像を多角的に理解する上で、欠かせない資料となっています。

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