キラル中心

キラル中心（きらるちゅうしん）

概要

「キラル中心」とは、分子が鏡像と重ね合わせることのできない性質、すなわち「キラリティー」を示す原因となる特定の原子や中心のことを指します。「不斉原子」あるいは「不斉中心」とも呼ばれます。化学物質の構造と性質、特に生化学分野で重要な概念です。

不斉炭素原子

最も代表的なキラル中心は、4つの異なる原子または原子団（置換基）が結合した炭素原子、「不斉炭素原子」です。

炭素原子は通常4本の共有結合を作り、これらは中心の炭素原子から正四面体の頂点方向へ空間的に配置されます。もし4つの置換基が全て異なれば、その炭素原子を中心とする分子の部分構造は鏡像と重ね合わせられずキラルとなります。このような分子の鏡像異性体は「エナンチオマー」です。

かつて「不整炭素」と表記されることもありましたが、現在は「不斉炭素」が一般的です。

キラル中心と分子のキラリティーの関係

不斉炭素の存在はキラリティーの主な原因ですが、必要十分条件ではありません。不斉炭素を持つ分子が必ずキラルとは限らず、逆に不斉炭素がなくてもキラルな分子も存在します。

不斉炭素があってもキラルにならない場合: 分子に対称面や対称中心が存在する場合（例：置換基が同じものがある、メソ化合物など）は、複数の不斉炭素を持っていても全体として対称性が高く、キラルになりません。
不斉炭素がなくてもキラルになる場合: アレン誘導体のように、不斉炭素を持たなくても、分子構造全体が非対称であればキラルになる場合があります。

したがって、分子のキラリティーは、個々のキラル中心だけでなく、分子全体の対称性によって決まります。

炭素以外のキラル中心

キラル中心は炭素に限りません。

第14族元素: ケイ素、ゲルマニウム、鉛など、炭素と同様に4つの異なる置換基を持つ場合。
アンモニウム塩: 中心窒素に4つの異なる基が結合したカチオン（R₁R₂R₃R₄N⁺）。
第15族元素: 窒素、リンなど。通常3結合と1孤立電子対を持つが、正四面体配置をとりキラル中心となり得ます。ただし、立体反転を起こすため、エナンチオマー間の相互変換が起こります。アミンの窒素は障壁が低く不斉中心とはみなされにくいですが、ホスフィンのリンは障壁が高くエナンチオマーを単離可能です。
錯体: 中心金属原子が配位子の非対称な配置により不斉中心として機能する場合。

キラル中心とジアステレオマー

複数のキラル中心を持つ分子には、エナンチオマー以外の立体異性体が存在し、これらは「ジアステレオマー」と呼ばれます。n個のキラル中心を持つ分子には最大2^n個の立体異性体があり得ますが、互いに鏡像関係にないものがジアステレオマーです。ジアステレオマーは物理的性質が異なるため分離が可能です。

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関連項目

* カーン・インゴルド・プレローグ順位則

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