キリストとサマリアの女 (カラッチ)

『キリストとサマリアの女』、または『井戸端の女』として知られるこの作品は、イタリアのバロック絵画を代表する巨匠アンニーバレ・カラッチが、1594年から1595年にかけて油彩で描いたものです。サンピエーリ宮殿のフレスコ画プロジェクトの一環として制作され、現在はミラノのブレラ美術館に所蔵されています。

この絵画は、『新約聖書』の「ヨハネによる福音書」第4章7-15節に基づいています。物語は、イエスがサマリアの女性に水を求めたことから始まります。当時、ユダヤ人とサマリア人は互いに交際を避けていましたが、イエスは彼女に話しかけました。女性は、その行為に驚きを隠せませんでしたが、イエスは「もしあなたが神の賜物のことを知り、また、『水を飲ませてくれ』と言った者が、だれであるか知っていたならば、あなたの方から願い出て、その人から生ける水をもらったことであろう」と答えます。女性は、イエスの言葉の真意を測りかねますが、「その水をわたしに下さい」と求めます。イエスは、「わたしが与える水を飲む者は、いつまでも、かわくことがないばかりか、その人のうちで泉となり、永遠の命に至る水が、わきあがるであろう」と語り、永遠の命に通じる信仰の重要性を説きます。

この作品は、ルドヴィコ・カラッチの『キリストとカナンの女』、アゴスティーノ・カラッチの『キリストと姦淫の女』と並び、イエスが女性と出会う場面を描いた連作の一部です。これら三点は、扉の上を飾る作品として制作されました。1811年、ブレラ美術館は、これらの絵画をサンピエーリ・コレクションから購入し、所蔵することになりました。

アンニーバレ・カラッチは、ヴェネツィア派の影響を強く受けた画家でした。この作品は、彼の作風が中部イタリアの絵画伝統と融合し始めた時期に描かれており、ルネサンスの巨匠コレッジョの影響も見て取れます。ルーヴル美術館所蔵の『キリストの復活』(1593年) にも様式的な類似性が見られます。また、ヴェロネーゼの影響とともに、古典的な様式を強く示していることから、「前プッサン的」と評されることもあります。準備素描は、かつてルドヴィコ・カラッチやアゴスティーノ・カラッチに帰属されていましたが、最終的にアンニーバレが制作したことが判明しています。アンニーバレは、準備素描からいくつかの点を変更しています。

『キリストとサマリアの女』は、『聖ロクスの施し』とともに、アンニーバレの生前に版画化された初期の絵画として知られています。版画は、グイド・レーニまたはフランチェスコ・ブリツィオによるものとされていますが、一部の研究者はアンニーバレ自身によるものだと考えています。初版は、絵画が完成した直後の1595年に制作されました。

参考文献として、『ブレラ　絵画館全作品ガイド』(SCALA、1997年) が挙げられます。また、ブレラ美術館公式サイトには、アンニーバレ・カラッチの『キリストとサマリアの女』に関する情報が掲載されています。

この作品は、イエスとサマリアの女性との出会いを通して、信仰の普遍性と永遠の命への希望を描いています。アンニーバレ・カラッチの優れた筆致によって、聖書の物語が生き生きと蘇り、観る者を深く感動させるでしょう。

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