キリストの埋葬 (ミケランジェロ)

ミケランジェロ作『キリストの埋葬』について

『キリストの埋葬』（伊: Deposizione di Cristo nel sepolcro）は、ルネサンス期の巨匠ミケランジェロ・ブオナローティに帰属される未完の板絵です。1500年または1501年頃に制作されたと考えられており、現在はロンドンのナショナル・ギャラリーに所蔵されています。この作品は、ミケランジェロの数少ない絵画作品の一つであり、その未完成の状態から、彼の制作技法を垣間見ることができます。

概要

画面中央には、墓へ続く階段を運ばれるキリストの遺体が描かれています。ミケランジェロ特有の人物表現により、登場人物を特定するのが難しい部分もあります。キリストの背後にいる顎鬚を生やした年配の男性は、アリマタヤのヨセフかニコデモであると推測されています。左側の赤い長衣をまとった人物は福音記者ヨハネ、足元でひざまずく女性はマグダラのマリアであると考えられています。

右側の人物については諸説あり、イエスを支える人物はニコデモ、あるいは別のマリアかもしれません。右端の人物はマリア・サロメである可能性も指摘されています。右下の大きく未完成の部分は、ひざまずく聖母マリアを描くためのスペースとして用意されたと考えられています。

何人かの人物が浮いているように見えるのは、絵画を下から見上げることを想定したためかもしれません。しかし、キリストを支える人物の立ち位置は、依然として不自然さが残ります。

未完成の大きな理由の一つとして、高価な顔料であるウルトラマリンブルーの不足が挙げられます。しかし、ウルトラマリンブルーを必要としない部分も未完成のまま残されているため、他の要因も考えられます。

構図の革新性

この作品は、伝統的な埋葬画とは異なり、キリストの身体を画面と垂直に配置しています。この構図は、差し迫った復活と聖体の象徴を暗示していると解釈されています。ただし、ミケランジェロ以前の作品にも同様の構図が見られるため、影響を受けた可能性も指摘されています。

ミケランジェロの制作技法

作品の未完成部分から、ミケランジェロがフレスコ画やテンペラ画のように部分ごとに仕上げていく制作方法をとっていたことが分かります。また、削り取られた絵具の跡も、彼の制作過程を物語っています。

歴史

この作品は、1650年代にはファルネーゼ家のコレクションに入り、その後、複数のコレクションを経て、ロバート・ターンブル・マクファーソンによって購入されました。当初はミケランジェロの作品と認められていませんでしたが、後に再評価され、現在では彼の真作とされています。

制作年については諸説ありますが、1500年にミケランジェロがローマで板絵の依頼を受けたものの、最終的に契約を破棄したという文書が発見されています。この作品は、その依頼に基づいて制作されたものだった可能性があり、ミケランジェロがフィレンツェに戻る際に未完成のままとなったと考えられています。また、ミケランジェロが『ダビデ像』の制作のためにフィレンツェを出発したことも、この作品が未完成となった要因の一つとして考えられます。


この作品は、ミケランジェロの制作過程や革新的な構図を理解する上で重要な資料となっています。

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