キリストの頭部 (コレッジョ)

コレッジョの『キリストの頭部』

『キリストの頭部』（伊: Testa di Cristo, 英: Head of Christ）は、ルネサンス期のイタリアを代表する画家、コレッジョが1525年から1530年頃に制作した油彩画です。この作品は、聖ヴェロニカの奇跡の物語を主題としており、ヴェールにキリストの顔が浮かび上がるとされる場面を描いています。しかし、コレッジョは伝統的な表現とは異なり、奇跡が起こる直前のキリストの姿を描くことで、独自の解釈を加えています。

主題：聖ヴェロニカの奇跡

聖ヴェロニカは、十字架を背負ってゴルゴタの丘へと向かうキリストの苦難に心を痛めました。キリストが倒れた際、彼女は自身のヴェールでキリストの額の汗と血を拭いました。その瞬間、ヴェールにはキリストの顔が奇跡的に浮かび上がったと伝えられています。この物語は、キリストの受難と聖ヴェロニカの信仰心を象徴する重要な出来事として、多くの芸術家によって描かれてきました。

作品の特徴

コレッジョの『キリストの頭部』は、荊の冠を被り、苦悶の表情を浮かべるキリストを正面から捉えています。キリストの視線は鑑賞者に向かい、その唇は何かを語りかけるかのように開かれています。画面右下には布のほつれが描かれており、白い背景がヴェールであることを示唆しています。コレッジョは、ヴェールに浮かび上がったキリストの顔を描くのではなく、ヴェールで包まれたキリスト自身の顔を描いています。さらに、顔だけでなく上半身もわずかに描くことで、より生々しいキリストの姿を表現しています。キリストがまとっている紫色のマントは、ユダヤ人の王としての威厳を表しています。

コレッジョは、伝統的なイコン的構図ではなく、聖ヴェロニカの奇跡を想起させる生きたキリストを正面から描くことを選びました。ヴェールの描写は、現実空間と架空空間の境界線を曖昧にし、見る者に深い印象を与えます。コレッジョは、この作品を通して、新たな祈りの図像を作り出し、自然主義的な光と繊細な筆遣いでそれを表現しました。

この作品の制作は、1527年のローマ略奪で失われた聖ヴェロニカのヴェールが再びサンピエトロ大聖堂に戻ったことによって生じた、新たな信仰の高まりと関連している可能性があります。また、作品のサイズが小さいことから、発注者の個人的な信仰心のために制作されたと考えられます。発注者は、聖女と同じ名前を持つ女性、具体的にはギルベルト7世・ダ・コレッジョの妻で詩人のヴェロニカ・ガンバラであった可能性が指摘されています。

『キリストの頭部』が多数複製されたことは、コレッジョがキリストの受難を見事に捉え、長い間ラファエロに次ぐ優れた芸術家とみなされていたことの証左です。

来歴

この作品らしき絵画が最初に記録に登場するのは、17世紀のアムステルダムです。1655年に作成されたアランデル伯爵夫人アレシア・ハワードの財産目録に「コレッジョ・ヴェロニカ」という絵画が記録されています。確実な記録としては、1680年にレオナール・ゴヨン・デ・マティニョンがイタリアの個人コレクションから購入し、フランスに持ち込んだことが挙げられます。その後、絵画はマティニョン家で相続され、ジャック・ド・ゴワイヨン・ド・マティニョンがモナコ公女ルイーズ＝イポリットと結婚したことでモナコ公のコレクションに加わりました。1803年頃にはモナコ公のコレクションを離れ、チャールズ・ジャック・シャプラン・ド・セレヴィル、画家ジャン＝バティスタ＝ピエール・ルブラン、版画家ジャン・ニコラス・ルルージュ、政治家シャルル＝モーリス・ド・タレーラン＝ペリゴールなどが所有しました。

1831年、第6代クーパー伯爵ジョージ・クーパーが購入し、イギリスに渡りました。その後、絵画はクーパーの子孫に相続されました。第7代クーパー伯爵フランシス・クーパーの夫人カトリーン・セシリア・コンプトン・クーパーの死後、ジョージ・クーパーの娘アンと外交官ジュリアン・フェーンの娘デスボロー男爵夫人エセル・アン・プリシラ・グレンフェルが相続しました。その後、絵画はエセルの娘アレキサンドラ・イモージェン・クレア・グレンフィルと結婚した第6代ゲージ子爵ヘンリー・ゲージに相続されました。1994年、第7代ゲージ子爵ジョージ・ゲージが美術商サイモン・ディキンスンを通じてJ・ポール・ゲティ美術館に売却し、現在に至ります。

参考文献

J. Paul Getty Museum, Burton B. Fredericksen, Masterpieces of the J. Paul Getty Museum Paintings. 1997.

外部リンク

J・ポール・ゲティ美術館公式サイト, コレッジョ『キリストの頭部』

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