キルデアのブリギッド

聖ブリギッド：アイルランドの慈悲深い守護聖女

聖ブリギッド（451年頃～525年頃）は、アイルランドで深く敬愛されるキリスト教の聖女です。聖パトリック、聖コルンバとともにアイルランドの守護聖人とされ、カトリック、聖公会、正教会で聖人として認められています。2月1日は彼女の祝日で、アイルランドでは春の訪れを告げる日とされています。

ブリギッドは、現在のラウス県ダンドーク近郊で生まれました。父は地元の異教徒の首長、母は聖パトリックから洗礼を受けたキリスト教徒という出自です。一説には、母は海賊にさらわれアイルランドで奴隷となったポルトガル人とも伝えられています。彼女の呼び名は、ケルト神話の神を起源とするとも言われています。

敬虔で優しい心根の持ち主だったブリギッドは、貧しい人々を常に助けました。彼女は、牛乳や小麦粉、日用品だけでなく、父親の貴重な宝石をちりばめた剣までをハンセン病患者に与えるほどでした。この彼女の過剰なほどの慈善心は、父親の怒りを買いますが、やがてブリギッドは尼僧としての道を歩むことを決意します。

修道院に入ったブリギッドは、アイルランド各地に修道院を建立しました。中でも、彼女が晩年を過ごしたキルデア修道院は有名です。525年頃、ブリギッドはキルデアで亡くなり、自身の建立したキルデア修道院に埋葬されました。その後、聖パトリックと聖コルンバの墓があるダウンパトリックのダウン聖堂へ移されました。さらに、3人のアイルランド貴族がブリギッドの頭蓋骨をリスボンにあるサン・ジョアン・バプティスタ教会へ持ち込んだとされ、現在もそこには保存されています。

ブリギッドの献身的な生き方はアイルランド中に広がり、彼女は「ゲールのマリア」として称えられるようになりました。彼女の死後数世紀には、フォイランらアイルランド人宣教師がブリギッド信仰をヨーロッパに伝えました。ベルギーのフォッス＝ラ＝ヴィルには、7世紀から10世紀に遡るサント・ブリジド礼拝堂が現存しています。

アイルランドやスコットランドの修道士たちの宣教活動を通じて、ブリギッド信仰はヨーロッパ大陸にも広まりました。特にドイツ、特に西部と南部では急速に信仰が広がり、スカンディナヴィア、フランス、イタリア、ポルトガル、そしてカナリア諸島にまで及んでいます。ドイツ西部の農村部では、20世紀に至るまで家畜の守護聖人として敬われていたという記録も残されています。乳児、鍛冶屋、養鶏業者、私生児の守護聖人としても知られるブリギッドは、今もなお人々の信仰を集め続ける、アイルランドを代表する聖女なのです。

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