キングストン弁

キングストン弁とは

キングストン弁（キングストンべん、英: kingston valve）とは、船舶の底に取り付けられた取水管に用いられる古い止水弁の一種です。小型のものは「キングストンコック」とも称され、日本では「金氏弁」という漢字表記が用いられることがあります。この名称は、イギリスのジョン・キングストン（1786年 - 1847年）および彼が設立したロサンゼルスのF.C.キングストン社に由来していると言われますが、明確には確認されていません。

背景

帆船の時代から蒸気船に移行する中で、蒸気機関の冷却に必要な大量の海水を安全に取り込む必要が生じました。現在でも、ディーゼルエンジンを使用する船舶においては、エンジンの冷却やバラスト水の注排水、消火用水の取水が不可欠です。また、船内で発生するビルジ（水の汚れや残骸）を処理する必要もあり、これらのためには喫水線より下に設けられた確実に閉鎖できる取水弁が求められます。

構造と機能

大型船のキングストン弁は、通常は電動などの遠隔操作によって制御されます。冷却目的の弁は常時開放、一方の注水や消火目的のものは通常閉じられた状態です。特に、軍艦においては戦闘時に緊急注水を行うための特別な弁が設けられることもあり、これにより被弾時の傾斜を修正することができます。このような例としては、戦艦「武蔵」や軽巡洋艦「大淀」が挙げられます。

興味深い点は、キングストン弁が必ずしも船底に設けられているわけではないということです。取水口の例としてビルジの排水孔が挙げられますが、これは排水用であり、船外の直接アクセスを持っています。小型の船舶では、雨水があまり溜まらないようにするために船底に排水口を設けることもありますが、これらは弁ではなく単純な栓で開閉されます。

誤解と自沈

キングストン弁に関しての一般的な誤解の一つには、非常時に船を沈めるために意図的に開放する装置として認識されている点があります。この弁は外部からの水の流入を制御するために設置されていますが、船内の配管に損傷が生じた際には迅速な閉塞が必要です。開放されると、水が直接船内に流入するため沈没の危険が高まります。

自沈の目的でキングストン弁が用いられることもありますが、それは一般的な用途ではなく、あくまで転用に過ぎません。例えば、スカパ・フローでのドイツ艦隊の自沈事件では多くの艦船が自沈しましたが、キングストン弁だけの操作で海没されることはなく、様々な破壊行為が同時に行われました。

現代での使用

今日、キングストン弁は潜水艦やタンカー、フェリー、貨物船などにおいても重心や傾斜の調整に使用される重要な装置として存在しています。特にバラストタンクの注排水の要素として欠かせない存在です。しかし、その用途や機能についての誤解が多く、フィクションの中で艦艇を沈めるための道具として誇張されることもあります。

結論

キングストン弁は、船舶の運行において非常に重要な役割を果たす装置ですが、その正しい理解と使用方法についての教育が必要です。誤解を解消し、正しい情報を広めることが、船舶の安全な運用を実現するために欠かせません。

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