スカパ・フローでのドイツ艦隊の自沈

スカパ・フローにおけるドイツ艦隊の自沈

第一次世界大戦終結後、スコットランドのスカパ・フローに抑留されていたドイツ艦隊が、連合国への接収を恐れて自沈した事件です。この事件は、戦後の国際関係や海軍史において重要な出来事として知られています。

背景

1918年11月11日、コンピエーニュで休戦協定が締結され、第一次世界大戦は終結しました。連合国はドイツの潜水艦（Uボート）の降伏には合意しましたが、水上艦艇の扱いについては意見が分かれました。アメリカは中立国での抑留を提案しましたが、ノルウェーとスペインが拒否。そこで、イギリスのロスリン・ウィームズ元帥が、ドイツ艦隊をスカパ・フローで抑留し、イギリス本国艦隊が警護するという案を提案しました。

ドイツ側には、11月18日までに出港準備を完了しなければヘルゴラント島を占領すると伝えられました。11月15日夜には、フランツ・フォン・ヒッパー提督の代理であるフーゴ・モイラー少将がデイヴィッド・ビーティー提督と会談し、降伏条件が提示されました。Uボートはハリッジで降伏し、水上艦隊はフォース湾へ向かい、その後スカパ・フローで抑留されることになりました。

艦隊の降伏

Uボートは11月20日からハリッジへの降伏を開始し、最終的に176隻が引き渡されました。ヒッパー提督は艦隊の降伏を拒否し、ルートヴィヒ・フォン・ロイター少将にその任務が託されました。11月21日、ドイツ艦隊はイギリスの軽巡洋艦カーディフに先導され、グランドフリートなど連合国海軍の370隻以上の艦艇と合流しました。ドイツ艦艇は全部で70隻でしたが、戦艦ケーニヒと軽巡洋艦ドレスデンは機関故障で落伍し、駆逐艦V30は触雷で沈没しました。

ドイツ艦艇はフォース湾に停泊した後、11月25日から27日にかけてスカパ・フローへ移動しました。駆逐艦はガッター海峡に、戦艦と巡洋艦はカヴァ島の北と西に配置され、最終的に74隻が抑留されました。遅れて到着した艦艇もあり、最後に到着したのは1月9日の戦艦バーデンでした。

抑留中の状況

抑留中のドイツ艦隊は、士気が著しく低下していました。海軍歴史家のアーサー・マーダーは、その状態を「完全な士気喪失状態」と表現しました。規律の欠如、食事の質の悪さ、レクリエーションの不足、郵便物の遅延などが原因でした。士官たちは「羞恥のあまり何も言えない状態」だったと報告されています。食料はドイツから送られてきましたが、質が悪く単調でした。イギリスは上陸や他の艦への訪問を禁止し、レクリエーションの場は艦内に限られていました。

ロイター少将は、抑留艦艇の指揮を執り、自由に使えるイギリスのドリフターを持っていました。乗員の帰国準備のために、時々他の艦を訪問することも許可されていました。しかし、水兵たちの中には「Red Guard」と呼ばれる集団がおり、船室の天井を踏み鳴らすなどして、ロイターの睡眠を妨害しました。

ロイターの指揮下には、当初2万名の乗員がいましたが、徐々に帰国し、最終的には4,815名になりました。

自沈の計画

抑留された艦艇の処遇は、パリ講和会議で議論されました。フランスとイタリアは艦隊の4分の1を要求しましたが、イギリスは艦艇の処分を望んでいました。休戦協定の第31条で、ドイツは保有する艦艇の破壊を禁じられていましたが、ロイター少将は自沈の計画を立て始めました。

ロイターは5月にヴェルサイユ条約の内容を予期し、自沈の詳細な計画を準備しました。彼は「どんな犠牲を払っても艦隊は自沈するだろう」ということを知らされていました。6月18日にドイツへ帰国する者たちを乗せた輸送船が出発し、ロイターの元には準備を行うにあたって信頼できる者が残りました。その日、彼は自沈の命令書を送り、6月18日に抑留中の艦艇に届けられました。

ヴェルサイユ条約の調印は、6月21日正午に行われることになっていました。イギリス側は、自沈の兆候を調査するためにドイツ艦艇に乗り込む準備をしていました。しかし、調印期限が6月23日に延期されたことを伝えるのが遅れました。フリーマントル提督は、6月23日の夜にドイツ艦隊を接収する計画を立てていましたが、延期の情報を知らず、6月21日に艦隊を訓練のために出航させました。

艦隊の自沈

6月21日午前10時ごろ、ロイターは艦隊に対し自沈の準備を命じました。午前11時ごろ、自沈を実行する信号が送られ、直ちに自沈が開始されました。シーコックや注水バルブが開けられ、艦内の導水管が破壊されました。正午には、フリードリヒ・デア・グローセが傾き始め、全ての艦がドイツ軍艦旗を掲げました。そして、乗組員たちは退艦し始めました。

スカパ・フローには、イギリスの駆逐艦3隻とトローラー7隻、数隻のドリフターしか残っておらず、駆逐艦のうち1隻は修理中でした。フリーマントルは12時20分に自沈の知らせを受け、12時35分に訓練を中止してスカパ・フローへ向かいました。彼が到着した時には、大型艦はほとんど沈没していました。イギリス側は自沈を阻止しようとしましたが、最終的に15隻の主力艦、4隻の軽巡洋艦、32隻の駆逐艦が沈没しました。

イギリス軍は、自沈を阻止しようとした際にドイツ兵9人を射殺し、約16人を負傷させました。その後、1,774人のドイツ兵が救助され、インヴァーゴードンへ運ばれ、捕虜収容所に送られました。

自沈後

ドイツ艦隊が自沈したことは、艦隊の配分を望んでいたフランスを落胆させました。一方で、艦隊の処分を望んでいたイギリスにとっては、この事件は都合の良い出来事でした。ウィームズ元帥は「ドイツ艦隊の自沈は実に喜ばしいことだ」と述べました。また、ドイツのラインハルト・シェア大将は「ドイツ艦隊から降伏の汚点が拭い去られた」と述べました。

スカパ・フローにあったドイツ艦艇74隻のうち、主力艦15隻、巡洋艦5隻、駆逐艦32隻が沈みました。残りは座礁させられるか浮いていました。座礁した艦は後に連合国間で分配されましたが、沈んだものは放置されました。しかし、1923年にはサルベージ会社が設立され、一部の艦が引き揚げられました。

引き揚げ作業

企業家アーネスト・コックスが、駆逐艦26隻を海軍本部から購入し、引き揚げ作業を開始しました。彼は古いドイツの乾ドックを改装し、駆逐艦を浮揚させました。その後、大型艦の引き揚げにも挑戦し、ダイバーが船体に穴をふさいで空気を送り込むという方法で成功を収めました。コックスは、最終的に駆逐艦26隻、巡洋戦艦2隻、戦艦5隻を引き揚げました。残りの事業は、Alloa Shipbuilding Companyに売却され、さらに5隻の艦艇が引き揚げられました。

現在、残っている7つの沈船は、法律によって保護されており、ダイバーは許可を得て訪問できます。

このスカパ・フローにおけるドイツ艦隊の自沈事件は、第一次世界大戦後の混乱期における国際関係と海軍の戦略を象徴する出来事として、今もなお歴史に刻まれています。

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