キンチェム

ハンガリーが生んだ伝説の競走馬、キンチェム

キンチェム（Kincsem、1874年3月17日 - 1887年3月17日）は、19世紀にオーストリア・ハンガリー帝国で活躍した競走馬です。ハンガリー語で「私の宝物」という意味を持つその名は、彼女の類まれな才能と人々を魅了する存在感を表しています。54戦54勝という、いまだ破られることのない無敗記録は、世界中の競馬ファンに語り継がれています。

生い立ち

キンチェムは、ハンガリーの国立キシュベル牧場で生まれました。母はハンガリー1000ギニー優勝馬ウォーターニンフ、父はイギリスで種牡馬として活躍したカンバスカンです。しかし、幼駒の頃のキンチェムは、ひょろっとして見栄えが悪く、馬主候補に見向きもされませんでした。一時はロマに誘拐されるという災難にも遭いましたが、犯人は彼女の内に秘めた勇気を見抜いていたと言います。

競走馬としての輝かしいキャリア

1876年、2歳になったキンチェムはベルリンでデビューし、初戦を見事勝利で飾ります。その後、ドイツ、オーストリア・ハンガリー帝国各地のレースを席巻。2歳時は10戦10勝、3歳時はハンガリーのクラシックレースを制覇するなど17戦17勝という驚異的な成績を収めました。

4歳になると、キンチェムは西ヨーロッパ遠征に挑みます。イギリスのグッドウッドカップでは、地元の有力馬が回避する中、見事勝利。フランスのドーヴィル大賞典でも1番人気の馬を破り、その強さを見せつけました。ドイツのバーデン大賞では、騎手の失態や野良犬の乱入などアクシデントに見舞われながらも、最終的には6馬身差で圧勝。その底力を見せつけました。

5歳時もキンチェムの勢いは衰えず、12戦全勝。バーデン大賞では3連覇を達成しました。しかし、レース中の事故により脚を負傷し、54戦54勝という無敗記録を打ち立てたまま、引退しました。

引退後と子孫たち

引退後、キンチェムは繁殖牝馬として5頭の産駒を産み、その血統は現代にも受け継がれています。直系子孫からは、イギリスオークスを制したポリガミーや、2000ギニーとダービーステークスを制したキャメロットなどの名馬が誕生しています。また、母系にキンチェムの血を持つアニマルキングダムがケンタッキーダービーとドバイワールドカップを制するなど、世界各地でその血脈が息づいています。

エピソード

キンチェムは、白黒の雌猫ナイチンゲールをいつも連れて遠征していました。グッドウッドカップで勝利後、列車への移動中にナイチンゲールが行方不明になった際には、見つかるまで2時間も鳴き続けたというエピソードが残っています。また、厩務員のフランキーを非常に信頼しており、彼のことを常に気にかけていたそうです。

ハンガリーの至宝

キンチェムは13歳の誕生日に疝痛で亡くなりました。彼女の死を悼み、ハンガリーの教会は追悼の鐘を鳴らし続けたと言われています。現在、彼女の骨格はハンガリー農業博物館に展示されており、生誕100周年の1974年にはブダペスト競馬場が「キンチェム競馬場」と改名されました。キンチェムは、ハンガリーの誇りとして、今も人々に愛され続けています。

キンチェムの血統表

(血統表に関する記述は省略)

キンチェムは単に強かっただけでなく、人々を魅了するカリスマ性を持った馬でした。彼女の生涯は、競馬の歴史における不朽の輝きとして、永遠に語り継がれるでしょう。

もう一度検索