ギアードロコ

ギアードロコ：曲線に強い蒸気機関車の進化

ギアードロコ（Geared steam locomotive）とは、歯車を用いて動輪に動力を伝える蒸気機関車の総称です。通常の蒸気機関車はピストン運動を直接ロッドで動輪に伝えますが、ギアードロコはピストンの往復運動をギアやロッドを介して間接的に伝達することで、急勾配や急曲線での走行性能を向上させています。ラック式登山鉄道や各軸駆動機関車とは異なり、あくまでも曲線通過性能の改善が目的です。

ギアードロコの動力伝達方式

ギアードロコの動力伝達方式は大きく分けて2種類あります。1つは、ピストンの往復運動をクランクシャフトで回転運動に変換し、ギアとロッドで動輪に伝える方式。もう1つは、ピストンの往復運動を回転運動に変換後、ギアを用いて間接的に動輪へ動力を伝達する方式です。いずれも、複雑な機構により、高い曲線通過性能を実現しています。

ギアードロコの技術発展

ギアードロコの発展には、大きく分けて2つの流れがありました。1つはアメリカで生まれた流れで、主に森林鉄道で使用される小型機関車として発展しました。もう1つはヨーロッパで生まれた流れで、ロッドによる動力伝達機構の改良から派生したものです。前者はアメリカやその影響を受けた国々の森林鉄道で多く採用され、後者はヨーロッパ、特にドイツとその旧植民地などの産業施設や軍用鉄道で広く使用されました。

主要なギアードロコの種類

シェイ式

シェイ式（Shay locomotive）は、ギアードロコとして最も普及した形式です。垂直に配置されたシリンダーから伸びるシャフトが、傘型ギアを介して全軸を駆動する方式が特徴です。シリンダーの増設が容易で、多様な出力に対応できるスケーラビリティの高さが強みでした。リマ社によって1878年から1945年までに2768両が製造され、アリ山森林鉄道など世界中で使用されました。日本でも津軽森林鉄道や魚梁瀬森林鉄道などで使用された実績があります。

クライマックス式

クライマックス式（Climax locomotive）は、ボイラー両側面に斜めに配置されたシリンダーがクランクホイールを駆動し、シャフトと自在継ぎ手を介して全軸を駆動する方式です。保守面では有利でしたが、出力向上は難しく、製造数はシェイ式に比べて少なかったです。約1000～1100両が製造されました。

ハイスラー式

ハイスラー式（Heisler locomotive）は、ボイラー下部にV型に配置されたシリンダーがクランクシャフトを駆動し、シャフトと密閉型ギアボックスを介して主動輪を駆動する方式です。塵埃の多い環境でも強い耐環境性を誇りましたが、製造数は625両と少なめでした。

クリン＝リントナー式

クリン＝リントナー式（Klien-Lindner locomotive）は、一見すると一般的な機関車のように見えますが、特殊なギア機構により、曲線通過性能を確保しています。複雑な機構を持つため保守には高度な技術が必要でしたが、ドイツを中心に多数製造されました。日本では、日本陸軍のK1・K2形機関車に採用されました。

コッペル・ギアシステム

コッペル・ギアシステム（Koppel Gear System）は、多動軸機関車向けの動力伝達方式です。特殊な歯車と自在継ぎ手を用いて、曲線通過性能を高めています。クリン＝リントナー式を改良したもので、耐環境性に優れ、世界中で使用されました。日本では日本陸軍のE形機関車に採用されました。

その他のギアードロコ

ウィラミット式、ジョンストン式、ダヴェンポート式、ダンカーク式、ドルビア式、バイヤーズ式、ベル式、ハーマン式、センチネル式、センチネル・キャメル式など、様々な形式のギアードロコが存在しました。これらは、それぞれ独自の機構と特徴を持っていました。

ギアードロコの現状

蒸気機関車の衰退に伴い、商業用としてのギアードロコの使用は激減しました。現在では、一部の観光用や動態保存機として稼働しているものが残っています。アメリカでは多くのギアードロコが動態保存されており、アリ山森林鉄道のシェイ式機関車は有名です。

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