ギャンゲット

パリ郊外の楽園：ギャンゲットの歴史と魅力

ギャンゲット（Guinguette）とは、フランス・パリ郊外に存在した、そして今も息づく大衆的なダンスホール兼キャバレーです。19世紀半ばから20世紀にかけて、特に夏の夜、パリ市民の憩いの場として賑わいました。セーヌ川やマルヌ川沿いの風光明媚な場所に軒を連ね、川エビや川魚料理、そして良質なワインを楽しみながら、アコーディオンを中心としたレトロな音楽に身を委ね、ダンスに興じる――そんな、ノスタルジックでロマンチックな空間がギャンゲットの魅力です。

パリ改造計画とギャンゲットの移転

当初、ギャンゲットはモンマルトル、ベルヴィル、メニルモンタンといったパリ市街の外れ、庶民的な郊外地区に多く見られました。しかし、1860年代に始まったジョルジュ・オスマンによるパリ改造計画によって、これらの地域がパリ市内に編入されると、税制などの問題からギャンゲットは新たな市境の外へと移転を余儀なくされます。それにより、ティエールの城壁の外側に新たなギャンゲットの集積地が形成され、発展を遂げていきました。

黄金時代と衰退、そして復活

ギャンゲットは、1920年代のキャバレー文化全盛期に絶頂を迎えました。特に、バスティーユ駅からヴァンセンヌ線でアクセスできるジョアンヴィル＝ル＝ポンや、サン・ラザール駅からサンジェルマン線でアクセスできるシャトゥー（現在はどちらもRER A線で繋がっています）といった、郊外電車で気軽に訪れることのできるセーヌ川、マルヌ川沿いの静かな場所に人気が集まりました。しかし、1960年代に入ると、次第にノスタルジックな存在へと変化し、その数は減少していきました。それでも、1980年代にはギャンゲット文化の復活を願う動きが生まれ、現在でも一部の店が営業を続けています。

現代のギャンゲット

現在、パリ近郊で恒常的に営業しているギャンゲットは、RER A線ジョアンヴィル・ル・ポン駅近くのマルヌ川沿いに位置する「シェ・ジェジェーヌ」と「ル・プチ・ロバンソン」の2軒のみです（冬季休業あり）。これらの店は、往年のギャンゲットの雰囲気を色濃く残しており、現代においてもパリ郊外の夏の風物詩として人々を魅了しています。また、シャトゥーにも、ギャンゲットの面影を残す川沿いのレストランがいくつか存在します。さらに、パリ市内でも、レストランの地下ホールなどで「ギャンゲット」と称してダンスイベントなどが開催されることもあります。

ギャンゲットの文化的な意義

ギャンゲットは、単なるダンスホールやキャバレーではありません。それは、パリ市民の生活文化、そして郊外の自然と都市の調和を象徴する存在でした。アコーディオンの音楽、川辺の景色、美味しい料理とワイン、そして活気あふれるダンス――ギャンゲットは、人々が日頃の疲れを忘れ、解放感に浸ることができた、特別な空間だったのです。その文化的な意義は、現在でも、現代のギャンゲットや、ギャンゲットをモチーフにしたイベント、そして人々の記憶の中に生き続けています。

終わりに

かつてパリ郊外を賑わせたギャンゲットは、時代と共にその姿を変えながらも、現在もなお、人々に忘れられた存在ではありません。そのノスタルジックな魅力は、現代の人々にも語り継がれ、新たな形で受け継がれていくことでしょう。パリを訪れた際は、ぜひ、現代のギャンゲットを訪れて、その独特の雰囲気を味わってみてください。そして、かつての賑やかだったギャンゲットの面影を想像しながら、パリ郊外の豊かな歴史と文化に思いを馳せてみてください。

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