ギュールズ

ギュールズ：紋章学における赤色の深淵

紋章学において、ギュールズ(Gules)は赤色を表す重要なティンクチャーです。ティンクチャーとは、紋章のデザイン要素である原色、金属色、毛皮模様の総称で、ギュールズは「原色」に分類されます。

古くからの白黒印刷や彫刻では、色が表現できないため、ペトラ・サンクタの方法という手法を用いて、ギュールズは垂直の縦線で表現されました。簡略化して、gu.やg.と表記される場合もあります。

ギュールズは、ルビーや火星といった象徴的な意味合いも持っています。特に火星は、錬金術や神秘学において鉄と結び付けられていました。

ギュールズの語源：喉から赤色へ

ギュールズという単語の語源は、ラテン語のgula（喉）であるという説が有力です。ラテン語から古フランス語のgole、そして赤い襟巻きを意味するgueulesを経て、中[[英語]]のgoulesになったという説や、同じくラテン語を起源とする英語のgullet（食道）に由来するという説も存在します。

興味深いことに、古くからの紋章学研究者たちは、ギュールズがペルシア語のgul（赤いバラ）に由来し、十字軍やイスラム圏スペインを通じてヨーロッパに伝わったと考えていました。しかし、Braultによれば、この説を裏付ける証拠は見つかっていないそうです。喉や口が赤いことから、意味が転換したという解釈がより妥当と言えるでしょう。

ギュールズの適用例：ポーランドとオランダ

ポーランドの紋章学において、ギュールズは最も一般的な地の色です。16世紀には、ポーランド貴族のほぼ半数の紋章が、ギュールズを地とし、銀色の紋章要素が描かれていました。

一方、オランダのアムステルダム市の紋章は、ギュールズの地の上に黒い縦帯（ペイル）と、3つの銀色の斜め十字（サルタイアー）が描かれています。これは、原色の上に原色を重ねてはいけないという紋章学の配色ルールに反する組み合わせですが、斜め十字によって視認性が確保されているため、問題視されていません。また、一部の中央ヨーロッパ地域では黒を原色とはみなさなかったという説もあり、アムステルダムの紋章の配色を正当化する解釈も存在します。

まとめ：赤色の多様な表現

ギュールズは、単なる赤色というだけでなく、歴史、文化、象徴性を織り交ぜた奥深い意味を持つ紋章要素です。その語源や適用例を通して、紋章学のルールや、時代背景、地域差による解釈の違いなども垣間見ることができ、紋章学の世界の複雑さと多様性を改めて感じさせられます。 今後も、この赤色のティンクチャーが持つ魅力は、紋章学を研究する人々を惹きつけ続けることでしょう。

もう一度検索