ギョベクリ・テペ

ギョベクリ・テペ：人類史を塗り替える古代遺跡

ギョベクリ・テペは、トルコ南東部のシャンルウルファ近郊にある、新石器時代の重要な遺跡です。その名の意味は「太鼓腹の丘」。紀元前1万年から紀元前8000年頃にかけて建造されたと考えられ、巨大なT字型の石柱が円状に配置された独特の構造が特徴です。この遺跡は、人類史における社会構造や宗教観の形成過程を解き明かす鍵として、世界中の考古学者から注目を集めています。

遺跡の構造と歴史

ギョベクリ・テペの遺跡は、大きく分けて二つの段階に分かれます。

第一段階（先土器新石器A期）：
巨大なT字型の石柱が円状に配置されています。物理探査の結果、20以上の円状構造と200本以上の石柱が確認されています。各石柱は高さ6メートル以上、重さ20トンにも達し、基盤岩に掘られた穴にはめ込まれています。
第二段階（先土器新石器B期）：
石柱は小さくなり、磨かれた石灰の床を持つ長方形の部屋の中に立てられています。また、遺跡の隣には、1万4000年から1万5000年前のものと推定される構造物が存在します。

遺跡は先土器新石器B期が終わると放棄され、その後はギリシャ・ローマ時代の構造物も見られます。しかし、その主要な遺構は新石器時代のものであり、特にその建造時期は農耕開始よりも前であるという点が重要です。

遺跡の発見と調査

1963年にアメリカの考古学者によってその存在が記録されましたが、当時は新石器時代の地層が後世の墓地で覆われたものと考えられていました。1994年、ドイツ考古学研究所のクラウス・シュミットが再調査を始め、翌年から発掘調査が開始されました。彼のチームによって、巨大なT字型の石柱や精巧なレリーフが発見され、ギョベクリ・テペが新石器時代における重要な祭祀遺跡であることが明らかになりました。

年代測定と構成

放射性炭素年代測定の結果、ギョベクリ・テペの活動は亜旧石器時代から始まり、先土器新石器A期には構造物が建設され、先土器新石器B期には小さい建物群が作られたことが判明しました。遺跡は台地に位置し、採石場跡や溝も見つかっています。また、ライオンの像やファルスの彫刻など、多様な遺物も発見されています。遺跡の第三層では、円形の構造物が確認され、その中心には一対の石柱が立っています。これらの石柱には動物の彫刻やピクトグラムが施されており、当時の人々の信仰や世界観を反映していると考えられます。

人類史上の意義

ギョベクリ・テペは、これまでの考古学的な常識を覆す発見でした。農耕開始以前の狩猟採集民が、これほど大規模で高度な構造物を建設できたことは、人類の社会構造や組織化能力に関する新たな視点を提供します。また、この遺跡は、宗教や信仰が社会の発展において重要な役割を果たした可能性を示唆しています。

ギョベクリ・テペの建造は、新石器革命、すなわち農耕と畜産の始まりよりも早く、陶芸や金属工学、筆記や車輪の発明よりも前に行われました。この遺跡は、これまで旧石器時代や先土器新石器時代とは無縁と思われていた高度な組織の存在を示しており、その意義は計り知れません。

解釈と信仰体系

クラウス・シュミットは、ギョベクリ・テペを初期新石器時代の神殿であると信じていました。彼は、この遺跡が周囲の広い範囲から人々を集める巡礼地であったと仮定しています。遺跡から発見された動物の骨は、狩猟によって得られた食料の廃棄物であると考えられます。また、シュミットは、ギョベクリ・テペを祖先崇拝の中心地と捉え、動物の彫刻は死者を守る意味を持つと考えました。

遺跡周辺のカラジャ山は、栽培された穀物の原産地の一つであると考えられています。このことは、この地域が農耕の始まりと密接に関わっていることを示唆しています。シュミットは、野生の麦を保護するために、この地域で集団が協力し、それが社会組織の形成につながったと考えています。また、彼はギョベクリ・テペを築いた集団の信仰体系を、シャーマニズムや古代メソポタミアの信仰と関連付けて推測しました。

考古学上の価値と今後の展望

ギョベクリ・テペは、人類社会の発展史における重要な転換点を示す遺跡であり、その発掘はまだ全体の5%程度しか進んでいません。今後の調査によって、この遺跡の謎がさらに解き明かされることが期待されます。この遺跡は、モニュメンタルな建築物が農耕定住社会に限られたものではないことを示し、「神殿から始まり、街が興った」可能性を示唆しています。しかしながら、ギョベクリ・テペの謎は多く、その解明には更なる研究が必要とされています。遺跡は、どのように建設され、維持されたのか、ピクトグラムは何を意味するのか、動物のレリーフはどのような役割を果たしていたのか、など、多くの疑問が残されています。

保存と世界遺産

近年、トルコ政府はギョベクリ・テペの保存に力を入れており、遺跡公園の建設やミュージアムの建設が進められています。2018年にはユネスコの世界遺産に登録され、観光客の増加が見込まれています。ギョベクリ・テペは、人類の創造的才能を表現する傑作であり、建築技術や景観デザインの発展における重要な交流を示しています。また、人類史上の重要な時代を例証する優れた例として、その普遍的な価値が認められました。

ギョベクリ・テペは、私たちの祖先がどのように世界を捉え、社会を築き上げてきたのかを理解するための貴重な手がかりを与えてくれます。この遺跡の発見は、人類の歴史を再考するための重要なきっかけとなるでしょう。

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