ギラウト・デ・ボルネーユ

ギラウト・デ・ボルネーユ

12世紀プロヴァンスの「トルバドゥールの巨匠」

ギラウト・デ・ボルネーユ（Guiraut de Bornelh, またはギロー・ド・ボルネーユ）は、およそ1138年から1215年にかけて活動した、12世紀プロヴァンスの傑出した詩人であり音楽家、すなわちトルバドゥールです。彼はリムーザン地方の比較的低い身分に生まれたとされています。

その生涯は、文芸への深い献身と独特の生活様式によって特徴づけられます。彼はリモージュ子爵の宮廷と関係を持ち、そこで詩作の才能を磨いたと考えられています。彼の才能は非常に高く評価され、同時代および後世の人々から「トルバドゥールの巨匠 (maestre dels trobadors)」と称されるに至りました。

彼の日常は対照的な二つの側面を持っていました。冬の間は学問に深く没頭し、知識を蓄え詩的技法を研鑽しました。一方、暖かくなる夏期には、彼は二人の歌い手を伴って各地を旅し、自らの作品を披露したり、新たな刺激を得たりしました。このような旅と学問の繰り返しが、彼の作品世界を豊かにしたのでしょう。

個人的な生活においては、ギラウト・デ・ボルネーユは生涯を通じて独身を貫きました。そして、詩作や歌唱活動によって得た収入は、自らのためではなく、故郷に残る家族や生誕地である聖ジェルヴェーズ教会へ絶えず送金していたと伝えられています。これは、当時の吟遊詩人としては珍しい、堅実で故郷を思う一面を示すエピソードです。

文学様式への貢献：軽い様式（trobar leu）の確立

ギラウト・デ・ボルネーユの文学史における最も重要な功績の一つは、「軽い様式（trobar leu）」と呼ばれる詩の様式を確立したことです。彼がこの様式を最初に考案したかどうかは議論の余地がありますが、少なくとも彼によって理論的に整理され、公式化されたと考えられています。trobar leuは、難解な比喩や複雑な言葉遊びを多用する「閉じた様式（trobar clus）」とは対照的に、平易で明快な言葉遣いと、分かりやすく流れるような表現を特徴とします。これにより、より幅広い聴衆に詩の意味や感情が直接的に伝わるようになりました。彼の作品は、この「軽い様式」の手本とされ、多くのトルバドゥールに影響を与えました。

今日まで彼の作品として確認されているのは、およそ90篇の詩と、それらに付けられたとされる4つの旋律です。これらの現存作品は、当時のプロヴァンス文学、特にトルバドゥール詩の様式やテーマ、そしてギラウト・デ・ボルネーユの思想や感情を知る上で、貴重な資料となっています。彼の詩は、愛、自然、社会批評など幅広いテーマを扱い、その洗練された技巧と深い感情表現によって、今なお多くの人々を魅了しています。

ギラウト・デ・ボルネーユは、その卓越した詩才と、平易な様式を確立した功績により、12世紀プロヴァンス文学の頂点に立つ一人として記憶されています。彼の生涯と作品は、当時の文化や社会を理解する上で不可欠な存在と言えるでしょう。

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