ギー・ド・ロチルド

ギー・ド・ロチルド：波乱の時代を生き抜いたロスチャイルド家当主

ギー・エドゥアール・アルフォンス・ポール・ド・ロチルド男爵（1909-2007）は、20世紀を代表するフランスの銀行家であり、名門ロスチャイルド家の第4代当主として知られています。彼の生涯は、激動の時代を背景に、財産と名家の再興、そして競馬への情熱という、ドラマチックな物語で彩られています。

パリ・ロチルド家の継承と第二次世界大戦

パリで生まれたギーは、エドゥアール・アルフォンス・ジェームス・ド・ロチルド男爵の次男として誕生しました。兄の夭折により、家督を継ぐことになります。名門の教育を受け、リセ・ルイ＝ル＝グラン、ソルボンヌ大学法学部を卒業後、家業であるロチルド銀行に入社します。

第二次世界大戦勃発後、ギーは予備役将校としてフランス軍に参戦。激戦を潜り抜け、ダンケルク撤退を経験します。その後、ドイツ軍の侵攻が続く中、家族はアメリカやアルゼンチンへ亡命しますが、ギー自身はしばらくフランスに残りました。しかし、ヴィシー政府による反ユダヤ主義政策の高まりを受け、アメリカへ亡命。アメリカ参戦後、自由フランス軍に加わり、ド・ゴール将軍と親密な関係を築き、数々の秘密指令を遂行しました。ノルマンディー上陸作戦後には、パリ解放に貢献し、パリ軍政長官副官に任命されています。

しかし、帰国したギーを待っていたのは、荒廃したロチルド家の邸宅でした。戦時中の略奪により、多くの財産を失っていましたが、持ち前の手腕と外交力で、戦後のロチルド家の復興に尽力します。

戦後の復興とミッテラン政権下の危機

1949年、父エドゥアールが死去すると、ギーは正式にロスチャイルド家の総裁に就任。分家の協力を得て、家業の再建に着手しました。戦時中にナチスやヴィシー政府に協力した他のフランス財閥が国有化された一方、亡命して抵抗を続けたロチルド家は、国有化を免れたことが、復興の大きな助けとなりました。

北部鉄道の再建、石油会社や鉱山会社への投資など、ギーは積極的に事業を展開。モーリタニアやアルジェリアでの鉱山・油田開発にも乗り出し、世界銀行からの融資も活用しました。フェリエール宮殿の大改築と一般公開も、彼の事業手腕を示すものです。ド・ゴール大統領とは親しい関係を築き、財政顧問としてジョルジュ・ポンピドゥーを推薦するなど、政治にも影響力を及ぼしました。

しかし、1981年のミッテラン政権発足は、ロチルド家にとって大きな転換期となります。ミッテラン大統領の国有化政策により、ロチルド銀行は国有化され、「ヨーロッパ銀行」と改名されました。ギーは、この政策を痛烈に批判。しかし、彼の先見性と準備により、スイスやニューヨークに設立した銀行を拠点に、社会主義政策の破綻を待ちました。

社会主義政策破綻後の再興とその後

ミッテラン政権の社会主義政策は、わずか2年で破綻。ギーはフランスへ帰国し、「パリ・オルレアン銀行」を設立。保守政権下で、国有化された財産の一部を返還され、銀行名も「ロチルド会社銀行」として復活させました。彼の息子ダヴィドは、ロンドン・ロスチャイルド家との統合を進め、現在もロスチャイルド家は世界的な金融グループとして存在感を示しています。

競馬への情熱

ギーは、父譲りの競馬好きとしても知られています。戦後のロチルド家の馬生産業の再建を主導し、凱旋門賞優勝馬など、多くの名馬を輩出しました。彼の所有馬の中には、日本中央競馬会が購入したクリスタルパレスや、社台グループの躍進に貢献したガーサントも含まれます。

私生活

ギーは、2度の結婚をしました。後妻マリー・エレーヌとの結婚は、ロスチャイルド家の当主が非ユダヤ教徒と結婚した最初の事例として注目を集めました。子供たちはユダヤ教徒として育てられました。

ギー・ド・ロチルドの生涯は、激動の時代を生き抜き、常に時代の変化に対応し、名門の家業を再興した、稀有な人物像を示しています。彼の遺産は、現在も世界各地で受け継がれています。

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