ギ酸3-メルカプト-3-メチルブチル

ギ酸3-メルカプト-3-メチルブチル（化学式：C6H12O2S）は、特徴的な香りを持つ有機硫黄化合物の一種です。

香りについて

この化合物は、カシスの代表的な香気成分として知られており、濃度が高い場合には動物の体臭を連想させるような匂いを発することがあります。また、白ワイン用ブドウ品種であるソーヴィニヨン・ブランに見られる、猫の尿を思わせる香り成分の一つでもあります。

コーヒーにおいては、特にケニアの高地で生産されるアラビカ種のコーヒー豆に特徴的に含まれています。ギ酸3-メルカプト-3-メチルブチルは、コーヒー豆の焙煎過程において、精油中のプレニルアルコール、ショ糖の加熱によって生じるギ酸、そして含硫アミノ酸が反応することで生成されます。ケニア産のコーヒー豆には、含硫アミノ酸の元となるコーヒーペプチドが他の産地のものと比較して約1.5倍も多く含まれていることが、この化合物が多く生成される要因と考えられています。

コーヒー抽出液中では、pH4.0前後で最も安定しており、加水分解によって徐々に減少します。

生成と利用

工業的には、3-メルカプト-3-メチル-1-ブタノールから合成されます。

興味深いことに、ギ酸3-メルカプト-3-メチルブチルは、ゴマやごま油からは検出された例はありません。しかし、ごま油にごく微量を添加することで、ゴマの香りを増強する効果があることが発見されています。

参考文献

* 旦部幸博『コーヒーの科学 「おいしさ」はどこで生まれるのか』（4刷）講談社ブルーバックス、2016年4月5日。ISBN 978-4-06-257956-8。

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