クイナリア

クイナリア (quinaria)

クイナリア（ラテン語: quinaria、複数形: quinariae）は、古代ローマにおいて用いられた容積または流量を示す単位です。特に、帝都ローマをはじめとする各地に張り巡らされたローマ水道の給水量を計測・管理する上で中心的な役割を果たしました。

この単位は、ローマ水道の給水管として広く使用されていた鉛管の最も細い種類、通称「5-pipe」（直径約2.3センチメートル）と呼ばれる管から供給される水量を基準として定義されました。「5-pipe」の鉛管一本から供給される一定時間の水量が、1クイナリアに相当するとされました。これにより、ローマの技術者や管理者は、異なる太さや本数の管を通して供給される水量を、クイナリアという共通の単位で比較・計算することが可能となりました。

古代の単位であるクイナリアを、現代の標準的な流量単位（例えば、1日あたりの立方メートルや1秒あたりのリットルなど）に換算する試みは、多くの研究者によって行われてきました。しかし、この換算は容易ではありません。なぜなら、管からの流量は、管の直径だけでなく、水が流れる際の圧力、すなわち「水頭」（水柱の高さに相当）や、管の長さ、勾配、材質の摩擦抵抗など、様々な要因に影響されるからです。特に古代ローマ水道における平均的な水頭を正確に推定することは、現代の研究者にとって大きな課題となっています。

20世紀初頭には、イタリアの技術者クラウディオ・ディ・フェニツィオが、1916年にクイナリアの換算に関する重要な研究を発表しました。彼は、当時のローマ水道の状況から推定される最低限の水頭を約12センチメートルと仮定し、1クイナリアあたりの流量を1日あたり約41.5立方メートル（または1秒あたり約0.48リットル）と算出しました。しかし、水頭をもう少し低い約10センチメートルと仮定する研究者もおり、その場合、1クイナリアは1日あたり約38立方メートル（1秒あたり約0.44リットル）に相当すると計算されました。さらに、アメリカの歴史家ジェームズ・テイラーは、これらの議論や他の要因も考慮に入れた上で、より控えめな値として、1クイナリアを1日あたり約32.8立方メートル（1秒あたり約0.38リットル）とする説を提示しました。

これらの異なる推定値が存在することは、古代ローマ水道の実際の運用における水頭が一定ではなく、場所や時期によって変動した可能性を示唆しています。また、古代の文献に記述されている情報だけでは、現代の物理的な観点から厳密な流量を特定することが難しい現実を反映しています。

クイナリアという単位の存在は、古代ローマ人が膨大な水道網を効率的に管理し、都市や市民、公衆浴場などに水を供給するための精密なシステムを持っていたことを物語っています。この単位を用いることで、複雑な水道設備の設計や、各需要元への公平な水量の配分などが、当時の技術レベルで可能となっていたと考えられます。

関連事項として、古代ローマの驚異的な土木技術の結晶であるローマ水道が挙げられます。

もう一度検索