クイル式駆動方式

クイル式駆動方式とは

クイル式駆動方式（Quill drive）は、鉄道車両における電動機からの動力伝達に用いられる、無装架駆動方式の一種です。この方式は、台車枠と車軸が相対的に変位する状況下で、安定した動力伝達を実現するために開発されました。

歴史

クイル式駆動方式は、1930年代後半にウェスティングハウス・エレクトリック社によって開発されました。同社が開発したWNドライブを基に、ペンシルバニア鉄道の電気機関車GG1形に採用され、その後、フランス、ドイツ、イタリア、スイスなどのヨーロッパ諸国でも広く採用されました。

構造と特徴

従来の吊り掛け駆動方式では、主電動機が車軸に直接取り付けられていたため、走行時の振動が電動機に直接伝わり、また電動機の重量が軌道に負荷を与えるという問題がありました。

クイル式では、主電動機を台車枠に弾性的に固定し、中空軸（クイル）を介して動力を伝達します。中空軸の外側には大歯車がベアリングを介して取り付けられ、主電動機の小歯車によって駆動されます。大歯車から車輪へは、緩衝バネとスパイダ（支持腕）を介して動力が伝達されます。

動力の伝達順序は以下の通りです。

モーター → 小歯車 → 大歯車 → 緩衝バネ → スパイダ → 車輪

この構造により、台車枠と車軸の位置関係の変化に影響されることなく、安定した動力伝達が可能になります。初期のクイル式は固定台枠の電気機関車に使用されていましたが、後にボギー式台車の電気機関車や、小型の電気機関車、軽量高速電車にも採用され、様々な派生方式が生まれました。1940年代には大型の電気機関車にも2軸ボギー台車に組み込まれるようになり、その後、コイルバネを積層ゴムに置き換えた方式に発展しています。

クイル式のメリットとデメリット

クイル式は、中空軸平行カルダン駆動方式に類似した効果をもたらしますが、駆動装置の重量の大部分をバネ上重量とできるという利点があります。これにより、軌道への負荷を軽減することができます。

しかし、動輪スポーク部分にスパイダが露出しているため、ギアボックスを密閉することが難しいという欠点もあります。日本では、スパイダ穴に溜まった砂や埃による磨耗が原因で、異常振動が多発し、問題となりました。そのため、一部の車両では従来の吊り掛け駆動方式に戻されました。一方、アメリカのGG1形では、クイル式のまま1980年代まで使用されており、クイル式自体が短命だったわけではないという意見もあります。

派生方式

クイル式駆動方式の欠点を改善するために、以下の様な派生方式が開発されました。

リンク式駆動方式

リンク式は、クイル式の弱点を克服した方式です。主電動機、小歯車、大歯車は台車枠に固定され、大歯車の側面にゴムブッシュを介した2本のリンクが中間体に連結されます。中間体からさらに2本のリンクが出て、車輪に連結されます。

この方式では、大歯車が密閉されたギアボックス内に収められ、異物侵入によるトラブルが解消され、メンテナンス性も向上しました。また、クイル式で発生していた異常振動の問題も解決されました。

動力伝達の順序は以下の通りです。

モーター → 小歯車 → 大歯車 → リンク → 中間体 → リンク → 車輪

中空軸可撓吊り掛け駆動方式

中空軸可撓吊り掛け駆動方式は、半吊り掛け駆動方式とも呼ばれ、クイル式と吊り掛け式の中間的な方式です。車軸の周囲に設けられた中空軸に大歯車が取り付けられており、電動機は台車枠と中空軸に吊り下げられています。

中空軸から伸びたピンが、ゴムブッシュを介して車輪に連結されており、中空軸と輪軸の相対的な変位を吸収します。主電動機の重量は台車枠と中空軸の両方に掛かるため、バネ下重量は従来の吊り掛け駆動と同等ですが、輪軸から主電動機への衝撃を軽減できます。

動力伝達の順序は以下の通りです。

モーター → 小歯車 → 大歯車 → ピン → ゴムブッシュ → 車輪

直角中空軸積層ゴム駆動方式

直角中空軸積層ゴム駆動方式は、主にヨーロッパの路面電車で使用される方式です。大歯車と車輪側からそれぞれ腕が伸び、腕の間に積層ゴムを挟むことで、変位を許容しつつ駆動力を伝達します。この方式は、基本的な構造はクイル式駆動方式と同一です。日本では広島電鉄の5000形電車で採用されています。

その他の関連方式

カルダン駆動方式

カルダン駆動方式は、カルダンジョイントを用いた無装架駆動方式です。

ブフリ式駆動方式

ブフリ式駆動方式は、歯車とリンクを大歯車に組み込んだ無装架駆動方式です。

まとめ

クイル式駆動方式は、鉄道車両の動力伝達において、重要な役割を果たした駆動方式です。その派生方式とともに、鉄道技術の発展に大きく貢献しました。現在では、より進化した駆動方式が主流となっていますが、クイル式駆動方式は、その歴史と技術的な意義において、忘れてはならない存在です。

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