クイーンズ・ターゲット

クイーンズ・ターゲット

「クイーンズ・ターゲット」（The Queen's Target）は、1860年にイギリスの著名な写真家ロジャー・フェントンによって撮影された白黒の写真作品です。この作品は、同年の7月2日にウィンブルドンで開催された英国ライフル協会の設立総会において、ヴィクトリア女王が撃ったライフルによってきちんと中央を射抜かれた標的を映しています。

概要

フェントンは1853年に写真協会を設立し、その後も写真の新しいメディアに対する興味を広めようと尽力していました。女王とその夫アルバート公が参加したこの総会で彼は、特別に写真を撮る機会を得ました。女王が自らの手で放った初めての弾丸が、まさに標的の中心を貫通した際、彼女はその成果に喜びを表しました。特に印象的なのは、ある芸術家が弾痕の正確な位置をスケッチしていたことです。女王はその実物を見たいと望みましたが、標的は鉄製で運ぶのが難しかったため、フェントンは写真を用いることに決めました。

このようにして撮影された「クイーンズ・ターゲット」は、現代の抽象絵画を先取りしたような驚くべき作品となりました。写真は、暗い色合いの円形の標的の中心を捉え、そこにある弾痕が印象付きます。さらに二本の線が標的の両側を縦に貫通し、視覚的なアクセントを与えています。

フェントンはこの写真を撮影した時期に、高度な写真技術を身につけており、雲や大聖堂の内部を撮影する際にその技術を発揮していました。その後、1862年には写真撮影の分野から離れてしまいましたが、彼の作品は今日の写真芸術に大きな足跡を残しています。

評価

「クイーンズ・ターゲット」は、様々な著名な批評家から評価されています。フランシス・ホジソンはこの作品について、「フェントンのこのような抽象的表現の背景には、実用的な目的があったはずだ。女王の最初の一発を記録するには写真が最適だった」と述べ、ジャスパー・ジョーンズの作品と関連付けて彼のスタイルの先駆けであると指摘しています。ブリー・ホッキングもまた、時代を経た抽象的な表現が後に続くポップアーティスト、ジャスパー・ジョーンズの『ターゲット』を想起させると評しています。

アメリカのナショナル・ギャラリーはこの作品について、「過激に単純化され、大胆で勇敢なものだ」と表現し、フェントンの作品の革新性を高く評価しています。

所蔵先

「クイーンズ・ターゲット」は、イギリスのロイヤル・コレクションおよびドイツのルートヴィヒ美術館に所蔵されています。ロイヤル・コレクション版はレタッチによって表面の傷が修復されていますが、ルートヴィヒ美術館の版にはその傷跡が残されており、作品の歴史を物語っています。

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