クスシヘビ

クスシヘビ（薬師蛇）

クスシヘビ（Zamenis longissimus）は、ヨーロッパに生息するナミヘビ科のヘビです。無毒であり、ヨーロッパ最大級のヘビとして知られています。

形態

全長: 通常110-150cm、最大200-225cm
体色:
幼体・亜成体：薄緑から茶緑色で、首に黄色い模様があり、ヨーロッパヤマカガシに似る。背面には2対の暗い斑点が並び縞模様を構成。頭部にも明瞭な暗い斑点。
成体：黄緑色または緑褐色の一様な体色。体側に白い縁取りのある鱗が並び、金属光沢がある。体色の薄い個体では、体側に2本の暗い縞が見えることがある。黒化個体やアルビノ個体も存在する。
鱗: 滑らかで金属光沢がある。
その他: 腹部は黄色から乳白色。虹彩は円形で、琥珀色から黄土色。

雌雄で体色に大きな違いはないが、雄の方が大型になる傾向があります。

分布

フランス、スペイン北部、イタリア北部、バルカン半島、小アジア、東欧の一部に分布しています。いくつかの孤立した個体群も存在します。イラン北部のオルーミーイェ湖周辺にも隔離分布していますが、これは古代ローマ時代にアスクレーピオスの寺院で飼育されていたものが野生化したという説があります。

生息環境

体温調節のための岩場や丘があり、適度な温度と湿度のある温帯混交林を好みます。森林周辺の移行帯によく見られ、庭園や小屋、廃墟など人里にも出現します。分布域の北縁では、食物・温度・産卵場所を人工物に依存する傾向があります。

生態

食性: 主にネズミなどの齧歯類や食虫類を捕食します。小鳥や卵、雛なども食べます。幼体はトカゲや節足動物を食べる。
天敵: イタチ科動物、キツネ、猛禽類など。幼体は他のヘビに捕食されることもあります。イノシシは卵や幼体を掘り返して食べます。
行動: 昼行性ですが、夏は薄明薄暮性になります。木登りが得意で、垂直な樹木にも登ることができます。外敵から身を守るために隠れることを優先しますが、追い詰められると威嚇や反撃をします。

繁殖

5月中旬から6月中旬に繁殖を行います。雄同士は儀式的な闘争を行い、雌は4-6週後に約10個の卵を産みます。卵は有機物の分解によって暖かく湿度の高い場所に産み付けられ、6-10週後に孵化します。

人間との関係

クスシヘビは、古代ギリシア・ローマにおいてアスクレーピオスの聖域で飼育され、医療の象徴として用いられました。アスクレーピオスの杖に巻き付いた蛇は、クスシヘビであると考えられています。現代でも、アスクレーピオスの杖は医療のシンボルとして広く用いられています。

保全状況

分布域は広いものの、人間活動による生息地の破壊によって個体数が減少しています。特に分布域の北縁では、地域個体群が孤立しており、遺伝子交流が途絶えています。そのため、ドイツなどでは絶滅危惧種として保護活動が行われています。原生林やその周辺の移行帯を保護し、道路建設や交通量の増加を抑制することが重要です。

関連項目

アスクレーピオス
ヘビ
ナミヘビ科

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