クセノパネス

クセノパネス：古代ギリシャの哲学者にして詩人

クセノパネス（紀元前6世紀）は、古代ギリシャを代表する哲学者であり、詩人としても知られています。イオニア地方のコロフォン出身である彼は、25歳の頃故郷を離れ、シケリア島ザンクレ、エレア、カタネと各地を転々としたと言われています。アテナイの哲学者アルケラオスに師事したという説もあります。晩年は息子たちの死を経験するなど、私生活にも苦難があったようです。

クセノパネスは、体系的な哲学体系を構築した哲学者というよりは、詩人としての顔の方が際立っていました。叙事詩やエレゲイア、イアンボスなど様々な形式の詩を創作し、公衆の前で朗誦していたと伝えられています。彼の作品は、コロフォンの建設やエレアへの植民を主題とした2000行にも及ぶ大作があったとされます。

彼は、当時のギリシャにおいて圧倒的な影響力を持っていたヘシオドスやホメロスを痛烈に批判しました。その神々に関する記述に異を唱え、彼らの描写が人間臭く、不完全であると非難したのです。この批判は、のちの哲学者ティモンによって「高慢さがないクセノパネス、ホメロスを曲解して叱責した人」と評され、プラトンのホメロス批判にも通じるものとして注目されています。

クセノパネスの思想：宇宙と神、そして人間の知性

クセノパネスの哲学思想は、断片的にしか残されていませんが、宇宙観、神観、そして人間の知性に関する独自の考えを示しています。

まず宇宙観においては、ディオゲネス・ラエルティオスの『ギリシア哲学者列伝』によると、世界の構成要素は4つであり、世界は数において無限であるが、時間経過による変化で無限になるわけではないと主張したとされます。一方で、多くの文献では、万物の根源（アルケー）を「土」、あるいは「土」と「水」としたという説が有力視されています。

神観においては、クセノパネスは従来の神々像を否定し、独自の概念を提示しました。彼は神を「球状であり、人間と少しも似たところがない。全体が知性であり思慮であって永遠なるもの」と描写しています。これは、人間的な感情や欠点を持たない、超越的な存在としての神をイメージしていると考えられます。また、彼は「生じるものはすべて滅びる」「魂は気息（プネウマ）である」という主張も残しています。

さらに、クセノパネスは人間の知性についても深く考察しています。エンペドクレスが賢者を見つけ出せないことに対し、「賢者を見つけようとするものは、その人自身が賢者でなければならない」と述べたという逸話は、自己認識と探求の重要性を示唆していると言えるでしょう。これは、自身の知性を高め、積極的に真理を探求しようとする姿勢の必要性を説いていると解釈できます。

クセノパネスの遺産：後の哲学への影響

断片的な情報しか残っていないクセノパネスの思想は、後の哲学に多大な影響を与えました。特に、ホメロスやヘシオドスへの批判は、神学や哲学における合理主義的思考の萌芽として高く評価されています。また、宇宙や神、人間の知性に関する彼の独自の洞察は、後世の哲学者たちの思考を刺激し、哲学の発展に貢献しました。彼の詩作活動は、詩と哲学の融合という新たな可能性を示したと言えるでしょう。彼の残した断片的な言葉は、現代においても、宇宙と人間についての深い問い掛けを私たちに投げかけてきます。

参考文献

H. Diels and W. Kranz (eds.), Die Fragmente der Vorsokratiker, 6th edn. Zurich 1968
B. Gentili and C. Prato (eds.), Poetarum Elegiacorum Testimonia et Fragmenta 1, Leipzig 1988
J.H. Lesher (ed.), Xenophanes. Fragments, Toronto 1992
その他多数の文献

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