ディオゲネス・ラエルティオス

ディオゲネス・ラエルティオス：古代哲学への貴重な窓

ディオゲネス・ラエルティオスは、3世紀前半に活躍したとされる人物です。彼の名前の表記には、ラエルティオス・ディオゲネス、ディオゲネース・ラーエルティオスなど、複数のバリエーションが存在し、確かな情報は少ないのが現状です。「ラエルティオス」が地名を指すのか、それとも称号なのか、いまだに解明されていない部分があります。

彼の名声を不朽のものとしたのは、何と言っても『ギリシア哲学者列伝』（Βίοι καὶ γνῶμαι τῶν ἐν φιλοσοφίᾳ εὐδοκιμησάντων）です。全10巻からなるこの著作は、古代ギリシアおよびローマの哲学者たちの生涯と思想を網羅した、類まれな哲学史料です。単なる学術的な記述にとどまらず、数々の興味深い逸話や、哲学者たちの奇矯な言動が記録されている点が、この書物の大きな特徴となっています。そのため、現代の読者にとっても非常に魅力的な読み物と言えるでしょう。

『ギリシア哲学者列伝』が単なる哲学者の伝記集ではない点は、注目に値します。著者は、哲学者たちの学説を客観的に紹介するだけでなく、自身の解釈や評価を加えることで、作品に独特の色合いを与えています。史料の引用やエピソードの選択には、著者の個人的な趣味嗜好が反映されていると考えられており、この点が、この書物を単なる編纂物ではなく、著者の人間性や時代背景が色濃く反映された作品にしていると言えるでしょう。また、皇后ユリア・ドムナに献呈されたという説も存在します。

この『ギリシア哲学者列伝』は、後世の思想家にも大きな影響を与えました。例えば、若き日のニーチェはラエルティオスの著作を熱心に研究し、「ラエルティオスは自殺と暴飲に強い嫌悪感を抱き、無神論者を非難し、霊魂不滅を信じていた」と評しています。これは、ニーチェ自身の思想形成にラエルティオスが影響を与えたことを示唆する興味深い証言と言えるでしょう。

古典学者パトリッティは、ラエルティオスの『ギリシア哲学者列伝』について、次のような批判的な見解を示しています。「ディオゲネス・ラエルティオスがいかなる人物で、いかなる時代に、またどのような境遇で生きたのかは誰にもわからない。彼はこの書物で哲学者たちの偉大さを明らかにしたわけでもなく、後世に彼らの学説を伝えたわけでもない。むしろ、書物を美しく飾ろうとして、自作のエピグラムや碑銘文を挿入したのだ」。この指摘は、ラエルティオスの著作における主観性や、その限界を浮き彫りにしています。

一方で、英文学研究者の中野好夫は、ラエルティオスの選んだ逸話の素晴らしさを高く評価しています。中野は、ラエルティオスの選択した逸話の独自性や魅力を詳細に論じ、この書物の価値を再認識させています。

このように、ディオゲネス・ラエルティオスとその『ギリシア哲学者列伝』は、後世の研究者たちによって多様な解釈がなされてきました。彼の著作は、古代哲学を理解するための貴重な資料であると同時に、著者の個性や時代背景を反映した、魅力的な読み物でもあります。現代においても、この書物は、古代ギリシア・ローマ哲学への理解を深める上で、欠かせない存在であり続けていると言えるでしょう。

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