クトゥルフの呼び声 (小説)

クトゥルフの呼び声：宇宙的恐怖の夜想曲

1928年、アメリカ合衆国の作家ハワード・フィリップス・ラヴクラフトによって世に送り出された『クトゥルフの呼び声』。この小説は、後に「クトゥルフ神話」と呼ばれることになる独特の宇宙的恐怖の世界観を確立し、ホラー文学史にその名を刻む金字塔となりました。

物語は、主人公であるフランシス・ウェイランド・サーストンが、故人の大伯父であるエインジェル教授の遺品を整理するところから始まります。そこには、不可解な粘土板や、奇怪な儀式を執り行う「クトゥルフ教」に関する膨大な資料が残されていました。

粘土板には、想像を絶する怪物「クトゥルフ」の姿と、太古の都市「ルルイエ」が描かれています。クトゥルフは、宇宙から飛来した存在で、現在は海底都市ルルイエで眠りに就いていると伝えられています。しかし、ある時が来れば、再び目覚め、世界に災厄をもたらすというのです。

エインジェル教授は、このクトゥルフに関する研究を進めていた最中に、謎めいた死を遂げます。サーストンは、大伯父の死の真相を探るべく、調査に乗り出します。彼は、ニューオーリンズの警察官が発見した奇怪な石像や、グリーンランドのイヌイットの儀式、そして南太平洋で遭難した船乗りの手記など、様々な情報を集めていきます。

これらの情報から浮かび上がってくるのは、世界各地で展開されているクトゥルフ教の活動と、その背後に潜む恐ろしい真実です。クトゥルフは、単なる怪物の枠を超えた、人類の想像をはるかに凌駕する存在として描かれています。

サーストンは、調査を進めるにつれて、クトゥルフ教団の脅威を身をもって体感することとなります。彼自身の命も危険に晒される中、彼は全ての真実を解き明かそうとします。しかし、その真実がもたらすのは、希望ではなく、深い絶望と恐怖です。

この物語は、三部構成で、短いながらも濃密な内容で描かれています。クトゥルフ神話の典型的な要素である、古代都市、謎の儀式、異形の怪物、そしてそれに挑む人間の無力さなどが、効果的に描かれています。

ラヴクラフト自身は、この作品を「そこそこの出来」と評したと伝えられていますが、後世の作家や評論家からは絶賛され、クトゥルフ神話の中核をなす作品として高く評価されています。その影響は、文学作品のみならず、ゲーム、音楽など、様々な分野に広がっています。

『クトゥルフの呼び声』は、単なるホラー小説としてだけでなく、人間の存在意義や宇宙における人間の小ささを問いかける哲学的な作品としても読むことができます。その独特の雰囲気と、不可解な謎は、読者に深い印象を与え、長く記憶に残る作品となるでしょう。

物語の構成は、様々な視点人物の証言や断片的な情報から、読者自身が謎を解き明かしていくという形式を取っています。時系列も入り乱れており、読者の推理力を試すような作りになっています。また、現実の地名や歴史的、学術的な事柄も登場する一方、それらについての詳しい説明は省かれており、読者の知識や教養を前提とした構成となっています。

この作品は、様々な翻訳版が存在し、それぞれの翻訳によって読み味が異なるのも魅力の一つです。様々な翻訳版を読み比べることで、より深くこの作品の世界観を理解できるでしょう。

登場人物も、主人公のサーストン以外にも、エインジェル教授、彫刻家のウィルコックス、警官のルグラース、船乗りのヨハンセンなど、個性豊かな人物が登場します。それぞれの登場人物の視点を通して、多角的に物語が展開していくことで、より一層物語の奥深さが増しています。

『クトゥルフの呼び声』は、宇宙的恐怖の世界観と、巧みなストーリー展開、そして読者を惹きつける謎解き要素が見事に融合した傑作です。一度読むと、その独特の世界観に魅了され、忘れられない読書体験となることでしょう。

もう一度検索