クニッシュ

クニッシュ：東ヨーロッパの伝統焼き菓子

クニッシュ (knish) は、東ヨーロッパ、特にアシュケナジム系ユダヤ人のコミュニティで古くから愛されてきた伝統的な軽食です。小麦粉の生地で様々なフィリングを包み込み、オーブンで焼き上げたもので、その素朴な味わいと多様なバリエーションが特徴です。ピロシキと似た料理ですが、生地や形状、具材に違いが見られます。

アシュケナジムのクニッシュ：多様なフィリングと形状

アシュケナジム（アシュケナジーユダヤ人）のクニッシュは、一般的にパイ生地を使用します。最も伝統的なものは、玉ねぎとシュマルツ（鶏やガチョウの脂）で風味付けしたマッシュポテトをフィリングとするシンプルなものです。しかし、時代や地域、個人の好みにより、フィリングは多種多様です。挽肉、ほうれん草、ソバの実のカーシャ（粥）、ミックスベジタブルなどを加えることも多く、ジャガイモの代わりにサツマイモを使用する場合もあります。

かつては長方形に成形するのが一般的でしたが、近年では丸く成形し、生地の頂部に穴を開けて中身が見えるようにするスタイルが人気です。ニューヨークなどのユダヤ系デリでは、ハンバーガーほどの大きさのクニッシュも販売されています。

ウクライナのクヌィーシュ：イースト生地と野菜のハーモニー

ウクライナでは、クニッシュを「クヌィーシュ（Книш）」と呼びます。ウクライナ風のクヌィーシュは、牛乳、バター、鶏卵を加えたイースト生地を使用するのが特徴です。フィリングには、玉ねぎ、キャベツ、カブなどの野菜の他、肉やフレッシュチーズなどが用いられます。

ウクライナの料理研究家マルタ・ファーリー・ピセツカによると、20世紀頃にはクヌィーシュの人気は衰えていたと言われています。しかし、カルパティア山脈地方のブコビナなどでは、カーシャをフィリングとしたクヌィーシュが今でも食べ続けられているようです。ウクライナ式クニッシュの特徴として、長方形にのばした生地にフィリングをのせ、焼き上げた際に中の蒸気が逃げるよう、生地を隙間を開けて包む方法が挙げられます。

東ヨーロッパの食文化とクニッシュ

東ヨーロッパでは、クニッシュはオードブルや軽食として、小ぶりなサイズで提供されることが多いです。一方、アメリカ合衆国、特にニューヨークなどの都市部では、より大きく食べ応えのあるクニッシュが人気を集めています。

クニッシュは、そのシンプルながらも奥深い味わいと、多様なバリエーションから、東ヨーロッパの豊かな食文化を象徴する料理と言えるでしょう。生地の種類、フィリングの組み合わせ、形状など、地域や家庭によって異なる独自のスタイルが存在し、それぞれの歴史や文化を反映しています。一口食べれば、東ヨーロッパの風土と人々の温かみが感じられる、そんな魅力的な軽食です。

参考文献

Farley, Marta Pisetska. Festive Ukrainian Cooking. University of Pittsburgh Press, 1990.

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