クライヌリッシュ蒸留所

クライヌリッシュ蒸留所：ハイランドの宝石、その歴史と特徴

クライヌリッシュ蒸留所は、スコットランドのハイランド地方に位置する有名なスコッチウイスキー蒸留所です。そのウイスキーは「ワクシー」と評される独特のリッチな風味が特徴で、ブレンデッドウイスキーの重要な原酒として、またシングルモルトとしても高く評価されています。本記事では、クライヌリッシュ蒸留所の歴史、製造工程、そして兄弟蒸留所であるブローラの物語を紐解きます。

歴史

創業の背景

クライヌリッシュ蒸留所は、1819年に初代サザーランド公爵によって、サザランドのブローラ村に設立されました。広大な領地を持つ公爵は、小作人が生産した大麦の有効活用と、当時横行していた密造への対策を目的としていました。周辺地域で石炭とピートが産出されることも、ウイスキー製造に適した条件でした。また、当時のスコットランドでは海運が大幅に改善され、ハイランド地方からのウイスキー輸出が容易になったことも、蒸留所設立を後押ししました。

経営者の変遷

創業後、クライヌリッシュ蒸留所は幾度か経営者が変わりました。1896年には、グラスゴーのブレンダーであるジェームズ・エインスリーとジョン・リスクが共同で権利を取得し、蒸留所を再建しました。これは、当時のイギリスの景気回復と、それに伴うウイスキー需要の増加に対応するためのものでした。その後、1912年にディスティラーズ・カンパニー（DCL社）が株式を取得し、1925年にはDCLとジョン・ウォーカー＆サンズの合併により、DCLの傘下となりました。1931年から1939年の間は、世界恐慌の影響で生産が一時停止しましたが、クライヌリッシュの原酒はすでにブレンデッドウイスキーとして高い評価を得ており、ジョン・ウォーカー＆サンズによる株式取得は、良質な原酒の確保を目的としたものでした。

新蒸留所の建設とブローラの誕生

第二次世界大戦後、スコッチウイスキーの需要が急増し、クライヌリッシュ蒸留所も生産能力の拡大を迫られました。そこで1967年、同じ敷地内に新しいクライヌリッシュ蒸留所が建設されました。近代的な設備が導入され、ポットスチルも6基に増設されましたが、ポットスチルの形状、麦芽、仕込み水、熟成庫は従来と変わりませんでした。新蒸留所を「クライヌリッシュA」、旧蒸留所を「クライヌリッシュB」と呼んで一時的に両方を稼働させましたが、1968年に旧蒸留所は閉鎖され、翌1969年に「ブローラ蒸留所」として再開されました。

ブローラ蒸留所の閉鎖と再建

ブローラ蒸留所はその後も操業を続けましたが、1970年代にはジョニーウォーカーの需要増加やアイラ島の干ばつなどの影響で、ヘビリーピーテッド麦芽を使用したウイスキーを一時的に生産しました。しかし、1980年代に入るとウイスキーの需要が低迷し、1983年にブローラ蒸留所は閉鎖されました。その後、ブローラの原酒は「レアモルト」シリーズとして販売され、近年ではディアジオ社によって再建プロジェクトが進められ、2021年に38年ぶりに再稼働を果たしました。

製造

クライヌリッシュ蒸留所の年間生産能力は480万リットルで、ハイランド地方の蒸留所としては比較的規模が大きいです。

原材料と発酵

麦芽は主にディアジオ系列のバーグヘッド・モルティングスから供給されるノンピート麦芽を使用しています。仕込み水はクラインミルトン川から採水され、発酵にはケリー社製の液体イーストを使用し、80時間という長めの時間をかけて発酵させます。

蒸留

クライヌリッシュ蒸留所のポットスチルは全部で6基あり、初留器と再留器がそれぞれ3基ずつです。特徴的なのは、再留器が初留器よりも大きい点で、これにより蒸留時間が長くなり、銅との接触時間が増えることで、よりスムースな味わいになるとされています。また、ニューポットを受けるタンクが独立しているため、「ヘッド」と「テール」をローワインに混ぜる前にタンク内で貯め置くことができ、この過程で生まれる沈殿物が、クライヌリッシュ特有のワックスのような風味の元になると考えられています。

熟成

熟成には主にバーボン樽が使用され、少量のみシェリー樽が使用されます。熟成庫は伝統的なダンネージ式で、一部は蒸留所内に、残りはファイフにある集中熟成庫に貯蔵されています。

製品

クライヌリッシュ蒸留所のオフィシャルボトルとしては、「クライヌリッシュ14年」が最も有名です。これは、甘くフローラルな香り、沿岸の香味、そしてアイランズウイスキーのような風味を持つ、バランスの取れたウイスキーです。また、クライヌリッシュの原酒は、ジョニーウォーカーなどのブレンデッドウイスキーにも使用されています。

ブローラ蒸留所（再建後）

2021年に再稼働したブローラ蒸留所は、閉鎖前の設備やデータを可能な限り再現し、年間80万リットルのウイスキーを生産しています。麦芽はクライヌリッシュと同じノンピートのロリエット種を使用し、発酵には長めの120時間をかけます。ポットスチルは閉鎖前のものを再利用し、冷却には伝統的なワームタブを使用していますが、冷却水の温度調節機能を追加することで、酒質の調整を可能にしています。熟成はすべて蒸留所内のウェアハウスで行われます。

まとめ

クライヌリッシュ蒸留所は、その独特な風味と歴史、そしてブローラ蒸留所の再建という話題性から、多くのウイスキーファンを魅了し続けています。ぜひ一度、その味わいを試してみてください。

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