クラウディオ・アラウ

クラウディオ・アラウ（Claudio Arrau León、1903年2月6日 - 1991年 6月9日）は、20世紀における最も偉大なピアニストの一人として世界にその名を轟かせた音楽家です。南米チリに生まれ、主にアメリカ合衆国を拠点に活動を展開しました。

生涯と功績

チリ中部の都市、チリャンの由緒ある家柄に誕生したアラウは、幼い頃から非凡な才能を示しました。わずか5歳で初めての公開演奏会を開き、その神童ぶりはたちまち話題となります。1911年にはサンティアゴで本格的なデビューを果たし、同年にはチリ政府の特別な支援を受けてドイツへと音楽留学します。ベルリンのシュテルン音楽院で、ピアノ教育史に名を残すマルティン・クラウゼに師事したことは、アラウの芸術家としての基礎を築く上で決定的な意味を持ちました。クラウゼはフランツ・リストの直弟子であり、アラウは偉大な伝統の正統な後継者として育てられました。

ベルリンでの華々しいデビューは1914年。弱冠11歳にして大成功を収めたアラウは、アルトゥール・ニキシュ、ウィレム・メンゲルベルク、ヴィルヘルム・フルトヴェングラーといった同時代の名指揮者たちと共演を重ね、ヨーロッパにおけるピアニストとしての確固たる地位を築き上げます。

1925年には母校であるシュテルン音楽院の教授に就任し、後進の指導にもあたります。1927年にはジュネーブ国際ピアノコンクールで第1位を獲得。さらに1935年からはベルリンでバッハとモーツァルトの全鍵盤作品の連続演奏会を開催するなど、壮大な企画に取り組み、その解釈の深さと演奏能力の高さを示しました。ベートーヴェンやシューベルトのピアノソナタ全曲演奏会などもヨーロッパや南米各地で行い、その名声は不動のものとなりました。

1941年にニューヨークのカーネギー・ホールでデビューした後、翌年からアメリカ合衆国に活動の本拠を移します。第二次世界大戦後、アラウの演奏活動はさらに世界的な広がりを見せ、南北アメリカ大陸、ヨーロッパ、そしてアジア各地で精力的に演奏旅行を行いました。日本には1965年に初めて来日し、その演奏は日本の聴衆にも強い感銘を与えました。アラウは最晩年に至るまで、コンサートやレコーディング活動に情熱を注ぎ続け、文字通り「巨匠」と称されるにふさわしい活躍を最後まで続けました。

演奏スタイルとレパートリー

アラウはそのキャリアを通じて、特にベートーヴェン、ブラームス、シューマンといったドイツ系の作曲家の作品を得意とすることで知られていましたが、リストやショパン、ドビュッシー、ラヴェルといった幅広いレパートリーにおいても独自の境地を開拓しました。彼の演奏は、大柄な体格から繰り出される力強くも抑制の効いた響きと、作品の構造や哲学を深く掘り下げた解釈が特徴です。表面的な華やかさよりも、内面の探求と音色の多様性を重視したその音楽は、「噛めば噛むほど味が出る」と評される深い世界を創り出しました。リストの「超絶技巧練習曲」の録音は特に高く評価されており、技術的な困難を超えた詩的な表現と、特に第5曲「鬼火」における音楽的な「謎」を見事に解き明かした解釈は、多くの人々に感銘を与えました。

主要な録音と遺産

アラウは生涯にわたり、膨大な数の録音を制作しました。主要なレパートリーであるベートーヴェンのピアノソナタ全集やピアノ協奏曲全集、ブラームスやショパン、モーツァルト、リストの主要作品の全集録音は、彼の芸術の核心を知る上で欠かせないものです。フィリップスやコロムビア（後のソニー・クラシカル）など、多くのレーベルに名盤を遺しました。

没後には、その偉業を偲んで多数の作品集がリリースされました。代表的なものとして、主要レーベルであるフィリップスから制作された「Claudio Arrau Edition」や、没後100周年を記念した「Arrau Heritage」などがあります。これらのボックスセットは、ベートーヴェンやブラームス、ショパンなど、主要な作曲家の作品別 தொகு集として構成され、アラウが遺した膨大な音源の全体像を伝えています。また、初期の貴重な録音を収録した「Birth Of A Legend」のような企画盤もリリースされており、時代ごとの演奏スタイルの変遷を知る手がかりとなります。

著作

演奏活動や教育活動に加え、アラウは自らの音楽観や人生哲学についても語っています。ジャーナリストのジョーゼフ・ホロヴィッツとの共著『アラウとの対話』は、彼の内面に深く迫る貴重な記録として知られています。

クラウディオ・アラウは、その類稀な才能と絶え間ない研鑽、そして音楽に対する深い洞察力によって、20世紀のピアノ界に計り知れない影響を与えました。彼の演奏は今なお世界中の音楽ファンに愛され、その遺産は後世に受け継がれています。

出典: ウィキペディア

もう一度検索