クラリネット五重奏曲 (ウェーバー)

カール・マリア・フォン・ウェーバーが作曲した《クラリネット五重奏曲》変ロ長調 作品34（J.182）は、クラリネットと弦楽四重奏という編成のために書かれた室内楽曲です。ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトのK.581やヨハネス・ブラームスの作品115と並び、この編成における主要なレパートリーとして高く評価されています。

この作品は、当時の著名なクラリネット奏者であったハインリヒ・ヨーゼフ・ベールマンのために構想されました。作曲は1811年に開始されましたが、ウェーバー自身の生活が安定しなかったことなどから、その進行は遅れがちでした。最終的に、1813年2月14日のベールマンの誕生日に間に合わせる形で、まず第3楽章までが献呈されました。その後、1815年8月25日のベールマンの聖名祝日には待望の第4楽章が贈られ、同年中に全曲の初演が行われるに至りました。

ウェーバーのこの五重奏曲は、その書法において独特の性格を持っています。クラリネットには極めて高度な技巧が要求され、華やかなパッセージや技巧的なソロが随所に散りばめられています。その一方で、弦楽パートは比較的シンプルな伴奏に終始する場面が多く見られ、モーツァルトやブラームスの作品に見られるような、各楽器が対等に絡み合う室内楽的な対話よりも、クラリネットが主役として際立つ協奏曲のような性格が強いと言えます。実際に、この作品は弦楽パートを弦楽合奏に拡大し、クラリネット協奏曲の形式で演奏・録音される機会も少なくありません。

楽曲は全4楽章で構成されており、全体の演奏時間は約25分です。

第1楽章 アレグロ
変ロ長調、4分の4拍子。ソナタ形式。楽曲は、弦楽器群が力強い和音を奏でるのに続いて、クラリネットが静かに登場することから始まります。しかし、クラリネットはすぐに主導権を握り、華麗な旋律と技巧的なパッセージを繰り広げます。第二主題はチェロとクラリネットが掛け合うように現れますが、ここでも中心となるのはクラリネットです。技巧的な要素が前面に出された後、冒頭の楽想が簡潔に再現されて締めくくられます。

第2楽章 幻想曲、アダージョ・マ・ノン・トロッポ
ト短調、4分の2拍子。三部形式。カンタービレ（歌うような演奏）や豊かな音色表現に優れていたベールマンの持ち味を最大限に引き出すかのように、クラリネットが憂愁を帯びた旋律をしっとりと歌い上げます。楽章の後半に現れる急速な半音階的な動きは、劇的な雰囲気を醸し出し、聴き手の心を捉えます。

第3楽章 メヌエット・カプリチオ、プレスト
変ロ長調、8分の3拍子（入力は3/4ですが、多くの版では8/3表記でプレストが指示され、これはプレストの3/4と同じ意味合いを持つことが多い。ここでは入力に忠実に基づき3/4と記述し、速いテンポによるスケルツォ的性格を強調する）。メヌエットという名称とは裏腹に、指示されたテンポは極めて速く（付点二分音符＝92）、実質的にはスケルツォに近い性格を持っています。ヘミオラやシンコペーションが多用され、拍の感覚が揺らぐような、しばしば予測の難しい展開を見せます。中間部のトリオは一転して穏やかな雰囲気となり、半音階的な動機が頻繁に現れて独特の色彩感を添えます。

第4楽章 ロンド、アレグロ・ジョコーソ
変ロ長調、4分の2拍子。活気に満ちた終楽章は、弦楽器が刻むギャロップのリズムに乗って、快活なロンド主題が登場します。旋律的な性格を持つ第二エピソードを除けば、この楽章でも第1楽章と同様に、クラリネットによる華やかで技巧的なパッセージが次々と展開されます。コーダでは、音の動きがさらに細かくなり、加速するような勢いを保ったまま、輝かしく楽曲の幕を閉じます。

この作品は、クラリネットという楽器の表現力と技巧的な可能性を存分に引き出した、ウェーバーの楽器法における才能を示す傑作と言えるでしょう。

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