クラリネット協奏曲 (コープランド)

コープランド：クラリネット協奏曲

アーロン・コープランド（Aaron Copland, 1900-1990）が作曲したクラリネット協奏曲は、ジャズ・クラリネットの巨匠ベニー・グッドマン（Benny Goodman, 1909-1986）の依頼によって、1947年から1949年にかけて書かれた単一楽章形式の協奏曲です。この作品は、コープランドが自身の音楽スタイルにジャズの手法を巧みに取り入れた代表例の一つであり、彼の創作活動において、より前衛的な表現へと移行する直前の時期にあたります。

編成は独奏クラリネット（B♭管）に、ピアノ、ハープ、そして弦楽合奏（弦五部）という室内楽的な色彩を持つものです。グッドマンからの依頼であったことからもわかるように、ジャズという要素が作品の根幹に深く関わっています。

初演は、まず放送という形で行われました。1950年11月6日、依頼主であるベニー・グッドマン自身のクラリネット独奏、フリッツ・ライナー指揮のNBC交響楽団によって初演されました。その後、同月24日には、ラルフ・マックレンの独奏、ユージン・オーマンディ指揮のフィラデルフィア管弦楽団により、演奏会形式での初演が実現しています。楽譜は1952年にブージー・アンド・ホークス社から出版されました。

楽曲の構成と特徴

この協奏曲は約17分の演奏時間を持つ単一楽章ですが、大きく二つのセクションに分けられ、これらが切れ目なく続いて演奏されます。二つのセクションの間には、独奏クラリネットによる華やかなカデンツァが置かれています。

曲の冒頭は「ゆっくりと表情豊かに（Slowly and expressively）」と指定され、広がりを持った静かで叙情的な音楽が展開されます。この前半部分は、コープランドらしい透明感のある響きと、アメリカの広大な風景を思わせるような雰囲気を持っています。

カデンツァは「自由に（freely）」演奏され、ここで初めて本格的にジャズのイディオムが登場します。技巧的なパッセージが多用され、独奏クラリネットの表現力が存分に発揮される聴きどころとなっています。

カデンツァを経て、後半は「速めに（Rather fast）」と指定された快活な音楽に転じます。ここではジャズのリズムやシンコペーションが頻繁に用いられ、テンポやキャラクターが目まぐるしく変化しながら、軽快に進んでいきます。ジャズとクラシックの語法が見事に融合した、この作品の最も特徴的な部分と言えるでしょう。

作曲後の改訂と関連事項

初稿が完成した後、グッドマンからの提案を受け、カデンツァと終結部におけるクラリネット独奏のパッセージが一部簡略化された版が演奏・出版されました。しかし、2000年には、チャールズ・ナイディックによって、より難易度の高い初稿版が復元され、世界初録音が行われています。

この協奏曲は、初演の翌年である1951年には、振付家ジェローム・ロビンズによってバレエ化されました。『まだら服の笛吹き（The Pied Piper）』と題されたこのバレエ作品は、コープランドの音楽に新たな視覚的表現を与えました。

なお、ベニー・グッドマンは、このコープランド作品の他にも、同時代の多くの作曲家に作品を委嘱しています。クラリネット協奏曲としてはパウル・ヒンデミットやダリウス・ミヨーの作品、また室内楽曲ではバルトークの『コントラスツ』やプーランクのクラリネットソナタなどが、グッドマンのために書かれた著名な作品として知られています。

このコープランドのクラリネット協奏曲は、ジャズとクラシックの境界を超えた革新的な試みとして、今なお多くのクラリネット奏者や聴衆に愛されています。

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