パウル・ヒンデミット

パウル・ヒンデミット：20世紀ドイツ音楽の巨匠

パウル・ヒンデミット (1895年11月16日-1963年12月28日) は、ドイツ出身の作曲家、指揮者、そして多才なヴィオラ奏者でした。ヴァイオリン、クラリネット、ピアノなど、多くの楽器を高いレベルで演奏できる希有な音楽家でもありました。

激動の時代を生き抜いた音楽家

ヒンデミットは、第一次世界大戦後のドイツで、ロマン派からの脱却を目指した新即物主義を推進した作曲家として知られています。彼の革新的な音楽は、同時代の作曲家に多大な影響を与え、20世紀ドイツ音楽を代表する存在となりました。生涯に600曲以上の作品を残し、交響曲やオペラのみならず、オーケストラのほぼすべての楽器のためのソナタを作曲するなど、その創作活動は驚異的です。

厳しい音楽教育と初期のキャリア

1895年、ドイツのハーナウに生まれたヒンデミットは、芸術家を目指しながらも成功しなかった父から、厳格な音楽教育を受けました。幼少期から弦楽三重奏団を結成し、音楽活動に励みます。1908年にはフランクフルトのホッホ音楽院に入学し、ヴァイオリン、作曲、対位法を学びました。卒業後は劇場のオーケストラでヴァイオリン奏者として働き始めますが、生活のためコーヒーハウスやダンスホールでも演奏するなど、苦労を重ねました。20歳の時にはフランクフルト・ムゼウム管弦楽団のコンサートマスターに就任するなど、若くして才能を開花させました。第一次世界大戦では従軍し、その経験も彼の音楽に影響を与えたと考えられます。

新即物主義とナチス政権下での苦悩

戦後、ヒンデミットはヴィオラ奏者として活躍する傍ら、作曲活動を精力的に行いました。1920年にはアマール弦楽四重奏団を結成し、室内楽作品を発表。1927年にはベルリン音楽大学の教授に就任するなど、国際的な名声を得ていきました。しかし、ナチス政権下では、彼の音楽は「退廃音楽」とみなされ、演奏が禁止されるなど、厳しい弾圧を受けます。ユダヤ人音楽家との共演も、彼に対する批判を招きました。1938年にはスイスに亡命、その後アメリカに移住し、イェール大学の教授を務めました。アメリカ時代には『ウェーバーの主題による交響的変容』や『ルードゥス・トナリス』など、現在でも人気が高い作品を多く発表しています。

バッハへの傾倒と独自の音楽理論

ヒンデミットの作風は、初期は後期ロマン主義や表現主義の影響が見られましたが、1920年代以降は新即物主義、新古典主義へと移行しました。彼は、モーツァルトよりもバッハの対位法を重視し、その高い対位法の技術は、グレン・グールドからも高く評価されています。また、クルト・ヴァイルやエルンスト・クルシェネクとともに、アマチュアでも演奏しやすい「実用音楽」を提唱しました。

ヒンデミットは、従来の調性の枠を超える音楽を創作しながらも、シェーンベルクらの無調音楽には批判的でした。彼は、自然倍音の重要性を説き、「拡大された調性」という独自の理論を展開しました。代表作であるピアノ曲『ルードゥス・トナリス』は、この理論が最も明確に示されている作品の一つです。

多彩な作品群

ヒンデミットは、オペラ、交響曲、協奏曲、室内楽、歌曲など、多様なジャンルの作品を残しました。特に、ヴィオラの独奏曲を多く作曲したことは有名で、彼の作品はヴィオラ奏者にとって重要なレパートリーとなっています。彼は、ほとんどすべてのオーケストラ楽器のための独奏曲も作曲しており、各楽器の特性を熟知した、真の職人と言えるでしょう。以下に、主な作品を挙げます。

オペラ:
殺人者、女達の望み
ヌシュ＝ヌシ
聖スザンナ
カルディヤック
行きと帰り
今日のニュース
画家マティス
世界の調和
長いクリスマスの会食

交響曲:
交響曲「画家マティス」
交響的舞曲
交響曲変ホ調
ウェーバーの主題による交響的変容
シンフォニア・セレーナ
シンフォニエッタ ホ調
交響曲「世界の調和」
* ピッツバーグ交響曲

協奏曲: (多数の楽器について作曲)

室内楽曲: (弦楽四重奏曲、ピアノ五重奏曲など多数)

その他: 映画音楽、合唱曲、歌曲など多数

後世への影響とレガシー

第二次世界大戦後、ヒンデミットはスイスのチューリヒ大学やウィーン音楽院で教鞭を執り、多くの弟子を育成しました。彼の音楽は、現代音楽の発展に大きな影響を与え続けており、現在でも世界中で演奏され、高く評価されています。彼の多才さ、そして音楽に対する深い探究心は、後世の音楽家たちに大きなインスピレーションを与え続けています。1963年、フランクフルトで死去。スイスに埋葬されました。彼の音楽は、これからも世界中の音楽愛好家たちを魅了し続けるでしょう。

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