クリエイション ダーウィンの幻想

『クリエイション ダーウィンの幻想』（原題：Creation）は、19世紀の偉大な科学者チャールズ・ダーウィンの人生と業績を描いたイギリス映画です。彼の波乱に満ちた人生、そして科学と信仰のはざまで揺れる彼の心の葛藤を丁寧に描いた作品として知られています。

この映画の最大の特徴は、ダーウィン夫妻を、実生活でも夫婦であるポール・ベタニーとジェニファー・コネリーが演じている点です。二人の繊細な演技は、ダーウィンの内面世界を深く表現し、観客を惹きつけます。特に、愛娘アニーの死を経験したダーウィンが、絶望と喪失感の中で『種の起源』を執筆していく過程は、見ごたえがあります。

映画の脚本は、ランダル・ケインズによるダーウィンの伝記『Annie's Box』を基にしています。この本は、ダーウィンの愛娘アニーの夭逝という悲劇と、それがダーウィンの思想に与えた影響に焦点を当てています。映画では、この悲劇がダーウィンの科学への探求心をどのように刺激し、また信仰との葛藤をどのように深めたのかが描かれています。

物語は、アニーの死をきっかけに、ダーウィンの信仰と科学の間で揺れ動く葛藤を軸に展開します。彼は、長年の研究成果である進化論を発表することで、当時の社会に大きな衝撃を与えます。進化論は、神による創造という従来の考え方を根本から覆すものでした。そのため、映画では、ダーウィンが周囲からの激しい批判や反発に直面する様子も克明に描かれています。

興味深いことに、アメリカ合衆国では、進化論に対する宗教的な反発を理由に、複数の配給会社が本作の配給を拒否しました。そのため、公開が延期されるという事態に発展しました。日本では、第22回東京国際映画祭で上映されましたが、劇場公開やソフト化はされていません。このことは、進化論をめぐる社会的な議論の複雑さを改めて示す出来事と言えるでしょう。

キャストは、ポール・ベタニー（チャールズ・ダーウィン）、ジェニファー・コネリー（エマ・ダーウィン）、マーサ・ウェスト（アン・ダーウィン）、トビー・ジョーンズ（トマス・ヘンリー・ハクスリー）、ベネディクト・カンバーバッチ（ジョセフ・ダルトン・フッカー）など、豪華な顔ぶれです。ベネディクト・カンバーバッチは、本作以外にも多くの話題作に出演し、高い評価を得ている俳優です。

批評家の評価は、Rotten Tomatoesでは115件のレビューで支持率47%、平均点5.50/10、Metacriticでは28件のレビューで加重平均値51/100と、賛否両論に分かれています。しかし、ダーウィンの複雑な内面や、当時の社会情勢をリアルに描いた作品であることは間違いなく、歴史上重要な人物の一面を垣間見ることができる、貴重な映画と言えるでしょう。

関連書籍として、『ダーウィンと家族の絆 長女アニーとその早すぎる死が進化論を生んだ』（白日社）があります。これは、映画の脚本にもなった『Annie's Box』の日本語訳で、ダーウィンの曾曾孫であるランダル・ケインズが執筆したものです。この本を読むことで、映画の内容をより深く理解することができるでしょう。

『クリエイション ダーウィンの幻想』は、科学史上の重要な出来事だけでなく、人間の葛藤や家族の愛、そして信仰と科学の対立といった普遍的なテーマを描いた作品です。公開は限定的でしたが、ダーウィンの人生に興味のある方、あるいは科学と信仰の葛藤に興味のある方にとって、必見の映画と言えるでしょう。

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