クリミアのアイ＝ペトリ

『クリミアのアイ＝ペトリ』（露: Ай-Петри. Крым, 英: Ai-Petri. Crimea）は、ウクライナ出身のロシア人画家アルヒープ・クインジによって描かれた油彩の風景画です。1898年から1908年の間に制作されたと考えられていますが、正確な制作年は特定されていません。この作品は、クリミアの自然の美しさを捉えたクインジの代表作の一つであり、ロシア美術館に所蔵されています。

作品について

作品は、クリミア山脈に位置する標高1234メートルのアイ・ペトリ山を、海側から見上げるように描いた風景画です。クインジは、この山を異なる視点から捉えた作品を複数残していますが、本作は彼の後期の作品に分類されます。絵のサイズは、縦39センチメートル、横53センチメートルで、キャンバスに油彩で描かれています。作品には、クインジ自身のサインは残されていません。

クインジは、ウクライナ南部のクリミア地方に何度も足を運び、1886年にはこの地に土地を購入しています。クリミアの自然は、彼の作品に大きな影響を与え、多くの風景画の題材となりました。

作品の歴史

クインジの死後、本作は彼の故郷であるマリウポリの美術館に寄贈される予定でしたが、第一次世界大戦の勃発によりその計画は中止されました。その後、1930年にロシア美術館に寄贈され、現在に至ります。

盗難事件

2019年1月27日、モスクワのトレチャコフ美術館で開催されたクインジの特別展に出展されていた本作が、大胆にも盗難に遭うという事件が発生しました。犯人は、美術館のスタッフのような服装で開館時間中に入館し、壁にかけられていた作品を人目も憚らず取り外して持ち去りました。この大胆な犯行は、美術館の防犯カメラにも記録されており、多くの観客がいる中で、犯人があたかも美術館関係者であるかのように振る舞ったため、誰も不審に思わなかったことが、事件の成功につながったと考えられています。幸いなことに、作品にはアラームなどの盗難防止装置が設置されていませんでした。

犯行の翌日、犯人は拘束され、取り調べに対して犯行を自供しました。彼の証言に基づき、美術館近くの建設現場で、額縁から外された状態の本作が、傷一つない状態で発見・回収され、美術館に戻りました。この事件は、美術館のセキュリティ対策の甘さを露呈し、多くの人々に衝撃を与えました。しかし、幸運にも作品が無事に回収されたことで、一件落着となりました。この事件は、美術品の保全におけるセキュリティの重要性を再認識させる出来事となりました。

本作は、クインジの芸術的才能を示すとともに、激動の時代の中で数奇な運命を辿った作品と言えるでしょう。

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