クリーペル

クリーペル (Kliper)

クリーペル（ロシア語: Клипер、英語: Kliper）は、21世紀初頭にロシアが構想した、ソユーズ有人宇宙船の後継となる次世代宇宙輸送システム計画です。既存のソユーズカプセルからの刷新を図り、より先進的で経済的な有人宇宙飛行を実現することを目指していました。しかし、この計画は最終的に直接的な実現には至らず、後の欧州宇宙機関との共同計画CSTS、そしてロシア独自のカプセル型宇宙船であるPPTS（後のオリョール）へと開発の焦点が移っていくことになります。

計画の背景と位置づけ

クリーペル計画が持ち上がった背景には、長年ロシアの有人宇宙飛行を支えてきたソユーズ宇宙船の設計が根本的に古くなってきたという認識がありました。ソユーズは信頼性は高いものの、カプセル全体が使い捨てであり、大気圏再突入時のG（加速度）も比較的高く、着陸地点の制御精度も限定的でした。これに対し、クリーペルは再利用可能な要素を導入することで運用コストの削減を図り、また、宇宙飛行士への負担を軽減するための低G着陸 capability を目指しました。これは、当時世界的に議論されていた再利用型宇宙輸送システムのトレンドに沿った動きとも言えます。

設計思想と特徴

クリーペルは、伝統的なカプセル型ではなく、部分的に再利用可能なスペースプレーン（宇宙往還機）として設計されました。この設計の最大の特徴は、大気圏再突入時に揚力（リフト）を発生させ、滑空しながら着陸を目指す点にありました。これにより、弾道飛行に近いソユーズのカプセル降下と比較して、宇宙飛行士にかかるG負荷を大幅に低減することが可能となります。

開発を担ったRKKエネルギアからは、初期の段階で主に二つの異なる設計案が提示されていました。

純粋なリフティングボディ型: 翼を持たず、胴体自体の形状で揚力を発生させるタイプ。
小型の翼を持つスペースプレーン型: 短い翼を備え、より航空機に近い挙動での滑空・着陸を目指すタイプ。

これらの設計は、大気圏再突入時の空力特性を改善し、着陸地点の精度向上にも寄与すると期待されました。

能力と目的

クリーペル宇宙船は、少なくとも6人以上の人員を一度に輸送できる能力を持つと想定されていました。主なミッションとしては、地球周回軌道上の国際宇宙ステーション（ISS）への人員や物資の輸送が挙げられます。これにより、既存のソユーズ宇宙船に比べて一度に輸送できる人数が増え、ISSへのアクセス効率が向上することが期待されました。

さらに、計画の初期段階や構想レベルでは、地球周回軌道だけでなく、より遠方の宇宙空間への飛行能力を持つ可能性も探られていました。楽観的な見方では、将来的な月探査や火星探査ミッションへの使用可能性も示唆されていました。

クリーペル計画の主要な開発目的は、以下の点に集約されます。

コスト削減: 再利用可能な設計を取り入れることで、使い捨てのソユーズに比べて運用コストを低減。
準備時間の短縮: 再利用可能な機体と効率的な運用により、次のミッションへの準備期間を短縮。
宇宙飛行士への負担軽減: 大気圏再突入時の低G化により、宇宙飛行士の肉体的負担を軽減。
設計の更新: 既存のソユーズカプセルの老朽化した設計を刷新し、最新技術を導入。

計画の変遷

クリーペル計画は単独で推進されたわけではなく、国際的な協力の可能性も模索されました。特に[欧州宇宙機関]との共同開発案が検討され、CSTS（Crew Space Transportation System）と呼ばれる計画へと発展しようとしました。しかし、CSTS計画は資金面や技術的な課題、双方の思惑の違いなどから実現には至らず、最終的に頓挫しました。

CSTSの失敗後、ロシアは独自の次世代有人宇宙船開発プログラムを継続することになりますが、この方針はクリーペルのようなスペースプレーン型ではなく、より伝統的なカプセル型の設計へと回帰しました。これが現在のオリョール（旧称PPTS、PTK NP）宇宙船開発プログラムです。オリョールは、ソユーズと同様のカプセル型ですが、最新技術を導入し、月探査などの深宇宙ミッションにも対応できる能力を目指しています。

結び

クリーペル計画は、ロシアがソユーズに代わる先進的な有人宇宙船システムを模索した重要な試みでした。部分再利用可能なスペースプレーンというコンセプトは、コスト削減、低G着陸、多様なミッションへの対応といった、将来の宇宙輸送システムに求められる様々な要素を取り入れようとする意欲的なものでした。計画自体は直接的な形で結実しませんでしたが、クリーペルを通じて得られた知見や、次世代宇宙船開発に関する議論は、その後のロシアの宇宙開発プログラム、特にオリョール宇宙船の開発に何らかの影響を与えたと考えられます。クリーペルは、ロシアの有人宇宙飛行の歴史における、未来への一歩を模索した興味深いプロジェクトとして記憶されています。

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