クルト・ザックス

クルト・ザックス：楽器学の先駆者

クルト・ザックス（Curt Sachs, 1881年6月29日 - 1959年2月5日）は、ドイツ出身のアメリカ合衆国の音楽学者であり、近代楽器学の創設者の一人としてその名を歴史に刻んでいます。特に、エーリッヒ・フォン・ホルンボステルとの共同研究によって考案されたザックス＝ホルンボステル分類は、楽器研究における基礎として、今日でも広く利用されています。

生涯

ベルリンで生まれたザックスは、幼少の頃からピアノ、音楽理論、作曲を学び、音楽への造詣を深めました。しかし、ベルリン大学では美術史を専攻し、1904年にアンドレア・デル・ヴェロッキオの彫刻に関する論文で博士号を取得しました。当初は美術史家として活動していましたが、その後音楽学へと転向し、国立音楽アカデミーの歴史的楽器コレクションの館長に任命されたことが、彼のキャリアを大きく方向づけました。彼は楽器の復元に情熱を注ぎ、楽器学者としての道を歩み始めます。

1913年には、それまでの200年間における楽器研究の集大成とも言える『楽器辞典』を出版し、楽器学の分野に大きな足跡を残しました。翌1914年には、エーリッヒ・フォン・ホルンボステルとともに、民族学雑誌に画期的な楽器分類法を発表しました。これが、現在も世界中で使用されているザックス＝ホルンボステル分類です。この分類法は、楽器の音源に基づいて分類するという革新的なもので、その後の楽器研究に多大な影響を与えました。何度も改訂を重ねながらも、この分類法は音楽民族学と楽器学において最も広く用いられる分類法として、その地位を確立しています。

1933年、ナチス政権の台頭は、ザックスの人生を大きく変えました。ユダヤ人であった彼は公職から追放され、パリを経てアメリカ合衆国へと亡命します。アメリカでは、1937年から1953年までニューヨーク大学で教鞭を執り、後進の育成に尽力しました。また、ニューヨーク公共図書館の学芸員としても活動し、研究活動を継続しました。

1940年には、世界の楽器に関する包括的な研究書である『楽器の歴史』を出版しました。この著作は、楽器研究における重要な文献として、今日でも高く評価されています。その他にも、リズム、舞踊、古代の音楽に関する著作を多数発表し、これらの研究は、現代の研究によって新たな知見が加えられている部分もありますが、依然として重要な参考文献として活用されています。

1956年、ザックスはベルリン自由大学から名誉博士号を贈られました。また、彼の功績を称え、ベルリン楽器博物館のコンサートホールには彼の名前が付けられました。

1959年、ザックスはニューヨークで生涯を閉じました。1983年には、アメリカ楽器協会によってクルト・ザックス賞が創設され、彼の偉大な業績は永く後世に語り継がれています。

日本語訳された著作

『比較音楽学』（全音楽譜出版社, 1953年）
『楽器の歴史』上・下（全音楽譜出版社, 1965年）
『音楽の起源 - 東西古代世界における音楽の生成』（音楽之友社, 1969年）
『音楽の源泉 - 民族音楽学的考察』（音楽之友社, 1970年）
『世界舞踊史』（音楽之友社, 1972年）
『リズムとテンポ』（音楽之友社, 1979年）
『楽器の精神と生成』（エイデル研究所, 2000年）

関連項目

楽器分類学
比較音楽学
民族音楽学
* 古代ギリシアの音楽

クルト・ザックスは、楽器学の分野に多大な貢献をしただけでなく、音楽学、民族音楽学の研究に大きな影響を与えた人物として、その功績は永遠に称えられ続けるでしょう。

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