クルナ (ジョチ家)

クルナ・ハン：ジョチ・ウルスの混乱を招いた謎多きハン

クルナ・ハン（またはクルパ・ハン）は、14世紀後半のジョチ・ウルス（キプチャク・ハン国）において、短期間ながらもハン位に就き、その後の混乱時代「大紛乱」の幕開けを告げた人物です。彼の出自や即位の経緯は謎に包まれており、ジョチ・ウルスの歴史に大きな影を落としています。

生涯

クルナ・ハンの出自は明確ではありません。一説には、ジャニベク・ハンの息子であり、先代のベルディ・ベク・ハンや後継者のナウルーズの兄弟とも言われています。しかし、ベルディ・ベクが即位時に多数の近親者を殺害したという記録もあり、クルナがジャニベクの息子である可能性は低いと考えられています。

彼はベルディ・ベクを殺害してハン位を奪取しましたが、その支配は長くは続きませんでした。ロシアの年代記によれば、クルナの治世はわずか6ヶ月と5日であり、その間多くの悪事を働いたとされています。最終的には、息子であるミハイルとイワンと共に、次のハンとなったナウルーズによって殺害されたと伝えられています。

治世と影響

クルナ・ハンの治世は、ジョチ・ウルスにとって大きな転換期となりました。彼がハン位を簒奪したことで、ジョチ・ウルスの権威は失墜し、各地の有力勢力が台頭し始めます。16世紀に編纂された『チンギズ・ナーマ』には、ベルディ・ベクの死後、ジョチ・ウルスの領土がママイとテンギズ・ブカによって東西に分割されたという記述があり、クルナの時代に地方勢力の自立化が進んだことを示唆しています。この混乱は「大紛乱」と呼ばれ、ジョチ・ウルスは長きにわたる内紛と衰退の時代を迎えることになります。

バトゥ家との関係

ジョチ・ウルスは、ジョチを始祖とするバトゥ家が代々ハン位を継承していましたが、クルナの出自が不明であることから、彼がバトゥ家の血を引いている可能性は低いと考えられています。彼の即位は、バトゥ家の正統な血統が途絶えたことを意味し、ジョチ・ウルスの政治的安定を大きく揺るがす要因となりました。

クルナ・ハンは、その短い治世において、ジョチ・ウルスに混乱と分裂をもたらした人物として記憶されています。彼の登場は、ジョチ・ウルスの衰退を加速させ、「大紛乱」と呼ばれる内紛の時代を招くことになったのです。彼の出自や即位の経緯は謎に包まれていますが、その存在はジョチ・ウルスの歴史において重要な意味を持っています。


参考文献
赤坂, 恒明『ジュチ裔諸政権史の研究』風間書房、2005年
加藤, 一郎「14世紀前半キプチャク汗国とロシア : 汗国史へのエチュード（3）」『言語と文化』第2号、文教大学、1989年
川口, 琢司「キプチャク草原とロシア」『中央ユーラシアの統合 : 9-16世紀』岩波書店、1997年
Howorth, Henry Hoyle (1970). History of the Mongols from the 9th to the 19th Century. II. London: Longmans, Green.

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