クレイトン・ロースン

クレイトン・ロースン (1906-1971) は、アメリカ合衆国オハイオ州エリリア出身の推理作家、推理雑誌編集者、そしてアマチュア奇術師という多彩な顔を持つ人物でした。ペンネームとしてスチュアート・タウンも使用しています。

オハイオ州立大学卒業後、1930年代にはアートディレクターやイラストレーターとして活動。その後、作家としての道を歩み始めます。ロースンの作品の特徴は、奇術師としての経験を生かした巧妙なトリックにあります。特に、観客の心理的な盲点を突くミスディレクションを得意とし、読者を巧みにミスリードする構成が魅力です。

1938年、処女長編『帽子から飛び出した死』を発表。元奇術師という設定の探偵、「グレート・マーリニ」を主人公に据え、その後の作品群でもマーリニは活躍することになります。このマーリニという名前は、有名なマジシャンであるハリー・フーディーニが芸名に倣ったものと考えられ、伝説の魔術師マーリンに由来すると思われます。また、スチュアート・タウン名義で発表された短編集も2冊存在します。

作家としての活動と並行して、ロースンは編集者としてのキャリアも築き上げます。1942年から1963年にかけて、複数の出版社で編集に携わった後、1963年にはフレデリック・ダネイにスカウトされ、エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジンのデスク（managing editor）に就任。1971年に亡くなるまでその職務を全うしました。

ロースンの奇術への情熱は広く知られており、グレート・マーリニの名で奇術ショーを開催するなど、その趣味を公然と楽しんでいたようです。さらに、自作の挿絵を添えた一般向けの奇術解説書も著しています。

ジョン・ディクスン・カーとの親交も深く、奇術という共通の趣味を通して、両者は推理作家としての分野でも互いに影響を与え合いました。特に有名なのは、「ドアや窓を目貼りした部屋における密室殺人」という同じ主題での競作です。ロースンは短編『この世の外から』で、カーは長編『爬虫類館の殺人』でそれぞれ独自の解決を提示しており、両者の技量の高さが伺えます。『この世の外から』のタイトルは、有名な手品の名前から取られた可能性が高いと言われています。

ロースンの主な著作には、『帽子から飛び出した死』『天井の足跡』『首のない女』『棺のない死体』などの長編小説や、『虚空から現れた死』『Death from Nowhere』などのスチュアート・タウン名義の短編集があります。また、『入れ墨の男と折れた脚』『動機なき殺人』『天外消失』『あの世から』といった短編作品も人気を博しました。これらの作品には、『マーリニと嘘発見器』『消えたダイヤモンド』『音響効果殺人事件』『世に不可能事なし』『奇蹟なんぞはいつでも起る』『マーリニと写真の謎』『世界最小の密室』など、多くのマーリニシリーズの作品が含まれています。さらに、彼は『あなたは魔術師』という奇術解説書も残しています。

クレイトン・ロースンは、作家、編集者、奇術師という三つの顔を持つ稀有な人物でした。その多彩な才能と、ミステリ界への貢献は、今日でも高く評価されています。彼の作品は、奇術の知識と巧みな心理描写を組み合わせた、独特の味わい深さを持ち、多くの読者を魅了し続けています。

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