ジョン・ディクスン・カー

ジョン・ディクスン・カー (1906年11月30日 - 1977年2月27日) は、アメリカ合衆国ペンシルベニア州出身の小説家です。本格推理小説の巨匠として広く知られ、特に「密室殺人の第一人者」という呼び声が高い人物です。カーター・ディクスンという筆名も用いており、そのほとんどの作品が日本語に翻訳され、日本でも高い人気を誇っています。

幼少期からスポーツに励みつつ、アレクサンドル・デュマ、アーサー・コナン・ドイル、ギルバート・キース・チェスタトンといった巨匠たちの作品を愛読していました。彼の創作活動は、1921年にハイスクールの同人誌に掲載された推理小説から始まりました。ハバフォード大学に進学後も歴史小説や推理小説を発表し続け、2年で大学を中退してパリに遊学するなど、多様な経験を積んでいます。

1930年、『夜歩く』で作家デビューを果たすと、次々と発表する怪事件と、巧妙なトリック、そして複雑で読者を飽きさせないプロットで、瞬く間に推理小説界で地位を確立しました。1932年には英国人と結婚してイギリスに移住しますが、作品中にはアメリカ英語の表現やアメリカ人の登場人物が多く登場するため、しばしば作者の国籍について誤解が生じました。

1933年には別の出版社と契約し、『弓弦城殺人事件』を発表。この作品は、カー・ディクスン名義で出版されましたが、従来の出版社からの抗議を受け、以降はカーター・ディクスンという筆名を使用することとなります。さらに1934年にはロジャー・フェアベーン名義で時代小説を発表するなど、多彩な活動を展開しました。1936年には英国ディテクションクラブの会員にも選ばれています。

第二次世界大戦の勃発に伴いアメリカに帰国しますが、BBCの依頼を受けて再びイギリスに戻り、多くのラジオドラマの脚本を執筆しました。しかし、空襲で家をなくし、戦後の物不足や労働党政権に馴染めなかったことから、1947年にアメリカへ移住。その後もサウスカロライナ州グリーンビルに定住するまで、何度も住まいを移しています。1963年には半身不随となるも執筆活動を続け、『エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン』で「陪審席」という連載コラムを執筆し続け、1977年、肺ガンで亡くなる直前まで創作活動を続けました。

彼の作品は数々の賞に輝きました。1950年にはコナン・ドイルの伝記『コナン・ドイル』でMWA賞特別賞を受賞、1963年にはMWAグランドマスター賞を受賞。さらに1969年には『火よ燃えろ！』がフランス推理小説大賞外国作品賞を受賞するなど、その業績は高く評価されました。

カーの作品は、アンリ・バンコラン、ギデオン・フェル博士、ヘンリー・メリヴェール卿といった個性的な探偵が登場することで知られています。初期作品では、マジックショーのような技巧的なトリックと、怪奇趣味あふれる描写が特徴的です。しかし、1940年代以降の作品では、怪奇趣味を抑え、感情のもつれやサスペンスの醸成に重点が置かれるようになり、より洗練された作風へと変化していきました。また、時代小説にも多くの作品を発表しており、その舞台は1670年から1927年までと非常に幅広くなっています。

カーの作品は、巧妙な伏線と複雑なトリック、そして独特のユーモアセンスが魅力です。しかし、第三者の介在や偶然の乱用、動機づけの弱さ、トリッキーすぎる展開など、批判的な意見も存在します。それでも、その類まれな創作力は、日本の推理小説作家である江戸川乱歩や横溝正史にも大きな影響を与え、現在でも多くの読者を魅了し続けています。彼の作品は、本格推理小説ファンのみならず、ミステリー愛好家すべてに、いつまでも読み継がれるべき、宝と言えるでしょう。

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