クレズマー

クレズマー（Klezmer）は、東欧系ユダヤ人（アシュケナジム）の民謡をルーツとする音楽ジャンルです。イディッシュ語に由来するこの音楽は、その独特な旋律とリズムで、世界中の人々を魅了してきました。

クレズマーの語源と起源

クレズマーという言葉は、ヘブライ語の「クレ・ゼメル」（歌の道具、楽器）に由来すると言われています。これは、楽器そのものを指すだけでなく、演奏家をも意味する言葉として使われてきました。クレズマー音楽の起源は、16世紀ごろの東欧、特にバルカン半島北部を含む地域に遡ります。当初は、結婚式やお祭りなどの儀式で演奏される音楽として発展しました。

クレズマーの多様なスタイル

クレズマー音楽には、スピーディーで激しいダンス音楽から、ゆったりとしたバラードまで、さまざまなスタイルが存在します。一般的には、クラリネットとヴァイオリンが主要な楽器として使用されることが多いですが、アコーディオン、トランペット、コントラバスなども加わることがあります。ロマ音楽（いわゆるジプシー音楽）との境界は曖昧で、同様の演奏スタイルを持つグループがヨーロッパ各地やイスラエルにも存在します。

アメリカでの発展とリバイバル

19世紀後半以降、東欧からのユダヤ人移民によってアメリカに伝えられたクレズマーは、1920年代にユダヤ系アメリカ人の間でポピュラーな音楽となりました。第二次世界大戦後には、ヨーロッパから逃れてきたユダヤ人たちによって、さらにその伝統が継承されました。

1970年代末には、アメリカで若いミュージシャンたちがユダヤ人としてのルーツを見直す動きが起こり、クレズマー音楽は再び注目を集めました。クレズマティックス（The Klezmatics）のデビューをきっかけに、1990年代半ばにはリバイバルブームが起こり、ジャズやパンクロックの要素を取り入れた新しいクレズマーが誕生しました。

現代のクレズマーと世界への広がり

現代のクレズマーは、ニューヨークを中心に、前衛音楽やジャズなど、さまざまなジャンルに影響を与えています。ジョン・ゾーンのユニット「マサダ」はその代表的な例です。ニューヨークで生まれたクレズマーのスタイルは、ヨーロッパやイスラエル、さらにはオランダ、フィンランド、オーストラリアなど、世界中に広がりつつあります。

日本におけるクレズマー

日本では、梅津和時や篠田昌已などの前衛ジャズミュージシャン、歌手の巻上公一らがクレズマーを取り入れ、独自の音楽を生み出しました。『屋根の上のバイオリン弾き』の大ヒットも、クレズマー音楽が日本で受け入れられる素地となりました。2015年には、ジンタらムータがニューヨークのイディッシュ演劇専用劇場の100周年記念祭に招聘され、海外公演を重ねるなど、日本のクレズマーも国際的な評価を得ています。

クレズマーは、過去の音楽遺産を受け継ぎながらも、常に新しい要素を取り入れ、進化し続ける音楽ジャンルです。その魅力は、国境や文化を超えて、多くの人々を魅了し続けています。

有名な曲として「ドナドナ」や、スティーヴン・スピルバーグ監督の映画『シンドラーのリスト』の音楽などが挙げられます。

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