クレティアン・ド・トロワ

クレティアン・ド・トロワ：騎士道物語の先駆者

クレティアン・ド・トロワ（Chrétien de Troyes）は、12世紀後半のフランスで活躍した詩人であり、騎士道物語（ロマンス）をうたうトルヴェール（吟遊詩人）として名を馳せました。彼の生涯については不明な点が多いですが、フランス北部シャンパーニュ地方の出身であると考えられています。

生涯

クレティアンの生涯に関する確かな情報は多くありません。しかし、1160年から1181年の間、シャンパーニュ伯アンリ1世の夫人マリー・ド・シャンパーニュの庇護を受け、宮廷に仕えていたことがわかっています。マリーは文化的な教養が高く、クレティアンの創作活動を支援しました。

作品

クレティアンは、アーサー王物語を題材とした物語詩で、中世ヨーロッパ文学に大きな足跡を残しました。彼の作品は、騎士道精神や宮廷風恋愛を描き、当時の人々に熱狂的に受け入れられました。主な作品として、以下のものがあります。

エレックとエニード（Erec and Enide）: アーサー王の騎士エレックと、その妻エニードの愛と勇気を描いた物語。
クリジェス（Cligès）: トリスタンとイゾルデの伝説を翻案した物語で、愛の苦悩と喜びが描かれています。
イヴァンまたは獅子の騎士（Yvain, le Chevalier au Lion）: 獅子を連れた騎士イヴァンの冒険を描いた物語。騎士道精神と自己犠牲の精神がテーマとなっています。
ランスロまたは荷車の騎士（Lancelot, le Chevalier de la Charrette）: ランスロットとグィネヴィア王妃の禁断の恋を描いた物語。宮廷風恋愛の典型として知られています。
* ペルスヴァルまたは聖杯の物語（Perceval, le Conte du Graal）: 聖杯を探し求める騎士ペルスヴァルの物語。未完の作品ですが、聖杯伝説の重要な要素を含んでいます。

『ランスロ』と『ペルスヴァル』は未完であり、それぞれゴドフロワ・ド・レイニと複数の作家によって補完されました。特に『ランスロ』のテーマがクレティアンになじまなかったという説もあります。

資料と影響

クレティアンの物語の源泉は、ケルトの伝承や失われたラテン語、フランス語の物語であると考えられていますが、特定には至っていません。彼の作品は、中高ドイツ語文学にも影響を与え、ヴォルフラム・フォン・エッシェンバッハの『パルチヴァール』、ハルトマン・フォン・アウエの『イーヴァイン』『エーレク』などの作品に影響を与えました。

また、クレティアンは、聖杯やランスロットとグィネヴィアの禁断の恋といった、今日まで続くテーマを初めて文学作品に登場させた作家としても特筆されます。

文学史における位置

クレティアン・ド・トロワは、アーサー王物語を洗練させ、宮廷文化に適合させた功績で知られています。彼は、「ブルターニュもの」と呼ばれるアーサー王物語を、フランスの読者に広め、その後の文学作品に多大な影響を与えました。彼の作品は、中世騎士道物語の最高峰として、今もなお多くの人々に愛されています。

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