クレメンタイン (探査機)

クレメンタイン探査機の詳細

クレメンタイン（Clementine）は、1994年にアメリカ航空宇宙局（NASA）とアメリカ国防総省に属する弾道ミサイル防衛局が共同で開発した月探査機です。この探査機は、正式名称をDSPSE（Deep Space Program Science Experiment）とし、月における水の存在の可能性を示唆する重要な観測を行いました。

1. 背景

冷戦時代、アメリカとソ連は月探査において激しい競争を繰り広げましたが、アポロ計画の成功をもってこの競争は一旦終息しました。その後、月探査は停滞期に入りました。NASAでは次なる目標として、アポロ計画で十分に調査されなかった月の高緯度地方の探査と、月全体の地形や地質情報の収集、資源量の見積もりが挙げられました。しかし、このための探査機が予算化されることは20年以上にわたりありませんでした。

2. クレメンタイン計画の開始

1992年に入って、NASAは弾道ミサイル防衛局と協力し、小型で軽量な探査機の開発を開始しました。アポロ17号が月を去ってから22年後の1994年、アメリカの月探査機が再び月に向かうこととなりました。この探査機は月の極周回軌道に入り、71日間にわたって観測を行いました。

3. 科学的成果

クレメンタインは4台のカメラを利用し、200万枚以上の画像を撮影しました。また、レーザー距離計によって月全体のデジタル地形データが収集されました。この際、月南極に存在する常に日光が当たらない永久影の領域が発見され、その場所に対して浅い角度からレーダー波を照射することで、水の存在を示唆する観測結果が得られました。しかし、この結果は確定的ではなく、実際に水が存在するかどうかは将来的な探査に課題が残されました。

4. 小惑星探査計画の中止

当初の計画では、月探査後に月周回軌道を離れ、地球と月でスイングバイを経て小惑星（1620）ジオグラフォスに接近し、その探査を行う予定でしたが、機器の故障により推進剤を失い、小惑星への接近は中止されました。

5. データの活用

探査によって得られた月のマルチスペクトル画像は一般に公開され、月面鉱物分布を解明する分光地質学の基礎資料として、世界中の研究者に利用され続けています。この科学的観測は、ユージン・シューメーカーとポール・スピューディスを中心とするチームによって実施されました。探査機自体は米国海軍研究所が製作し、センサー開発にはローレンス・リバモア国立研究所が関与しました。プロジェクト全体の費用は約8000万ドルであり、開発期間は22か月という短期間でした。

6. 意義

クレメンタイン計画は、当時としては異例の安価かつ迅速な月・惑星探査ミッションの実現を示す好例です。この成功は、NASAの「速く・良く・安く（Faster-Better-Cheaper）」という精神を体現したディスカバリー計画へとつながっていきました。

7. 日程

• - 1994年

- 1月25日：ヴァンデンバーグ空軍基地からタイタン23Gで打ち上げ
- 2月19日：月に到達し、極軌道に入る
- 2月26日：月面のマッピング作業を開始
- 4月21日：月面マッピングが終了
- 5月5日：月周回軌道を離脱
- 5月7日：搭載コンピュータ故障により制御不能となり、探査終了

このように、クレメンタインの探査は月における水の研究や、様々な科学的知見を提供することに貢献しました。

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