クロス・ラミネーティッド・ティンバー

クロス・ラミネーティッド・ティンバー（CLT）

クロス・ラミネーティッド・ティンバー（英語名: Cross laminated timber）は、その略称であるCLT、または日本語で直交集成板（ちょっこうしゅうせいばん）とも呼ばれます。これは、製材された木の板（ラミナ）を、層ごとに繊維の方向が約90度になるように重ね合わせ、強力な接着剤で圧着して作られる厚みのあるパネル状の木質建材です。通常、3層以上の積層構造を持ちます。

概要と構造

CLTの最大の特徴は、板を繊維方向に対して互い違いに積層する「直交」構造にあります。この構造により、一般的な木材に見られる収縮や膨張、反り、ねじれといった挙動が大幅に抑制されます。また、各層が互いを拘束し合うことで、高い寸法安定性と強度、剛性を発揮します。その強度は、同等の厚さのコンクリートに匹敵するとも言われ、建物の構造材として十分な性能を持ちます。

従来の木造建築が柱や梁といった線材を組み合わせて構造体を支えるのに対し、CLTは壁や床といった「面」で構造を支える構造システムに適しています。これにより、設計の自由度が増し、大空間の実現なども可能になります。

優位性

CLTは様々な優れた特性を持っています。

施工性と応用範囲の広さ: パネルは工場で事前に加工されてから現場に搬入されるため、現場での作業が大幅に削減されます。くり抜きや裁断も容易で、壁、床、屋根など、建築物の多様な部位に使用できます。パネルの厚みは積層する板の枚数で調整でき、長さはパネルを接合することで対応可能です。
工期短縮: 現場作業が簡素化され、養生期間も不要なため、従来の工法に比べて大幅な工期短縮が可能です。これにより、建設プロジェクト全体のコスト削減にもつながる可能性があります。
軽量性: コンクリートと比較して非常に軽量です。同程度の曲げ強度を持つ場合、コンクリートの半分以下の重さになります。建物の総重量が軽くなるため、基礎にかかる負担が軽減され、基礎工事を簡素化できます。これは軟弱な地盤や狭い敷地での建設において特に有利です。
高い断熱性: 木材本来の高い断熱性能を持ちます。同じ厚さで比較した場合、コンクリートよりもはるかに断熱性が高く、省エネルギー性の高い建築に貢献します。例えば、厚さ9cmのCLTは約120cmのコンクリートと同等の断熱性能を持つとされます。
持続可能性と環境負荷低減: CLTは再生可能な資源である木材を主原料としています。製造時のエネルギー消費も比較的少なく、成長過程で二酸化炭素を吸収・固定するため、脱炭素社会の実現に貢献する環境に優しい建材です。

課題

普及が進む一方で、いくつかの課題も指摘されています。

コスト: 比較的新しい建材であるため、生産体制が十分に確立されておらず、現状では他の工法（特に鉄筋コンクリート造）と比較してコストが高くなる傾向があります。ただし、需要の拡大や製造・流通技術の発展により、コスト削減に向けた取り組みが進められています。
実績とノウハウ: 欧米に比べて日本国内での実績はまだ少ない状況です。構造設計や施工に関する専門的なノウハウや技術者の育成も重要な課題です。政府は公共建築物でのCLT利用を促進するなど、普及に向けた後押しを行っており、実証的な建築を通じてノウハウの蓄積が進められています。
音響性能: 木材は音を伝えやすい性質があるため、高い遮音性能を求める場合は、複数枚のCLTパネルを組み合わせたり、間に遮音材を挟んだりするなど、追加的な対策が必要となる場合があります。
可燃性: 木材であるため、本質的に燃える素材です。しかし、建築基準法においては、CLTパネルの「燃えしろ設計」といった耐火性能を確保するための技術基準が定められており（2016年施行）、一定の条件を満たせば、防火被覆なしでも建築が可能となっています。

歴史と普及

CLTは1990年代初頭にドイツとオーストリアで開発・実用化が始まりました。特にオーストリアの研究者ゲアハルト・シックホーファー氏はその発展に大きく貢献し、「森のノーベル賞」と呼ばれるマルクス・ヴァレンベリ賞を受賞しています。2000年代に入ると、ヨーロッパを中心にCLTの利用が拡大し、集合住宅やオフィスビルなど、様々な種類の建築物に採用されるようになりました。かつて木造の高さに厳しい制限があった国々でも法規制が見直され、近年では高層木造建築への挑戦も進んでいます。ノルウェーに建設された18階建ての木造ビル「Mjøstårnet」は、CLTを用いた高層建築の代表例です。

日本では、2014年に高知県に日本初のCLT構造による3階建て建築物が完成しました。その後、都市部における高層建築への応用も進み、2022年には横浜市に11階建ての純木造耐火建築物が竣工するなど、CLTを含む木質構造の可能性が広がっています。

規格と今後

日本国内においては、林業振興や脱炭素化の推進という背景もあり、木材利用を促進する法整備が進められています。CLTについても、2013年にJAS規格（日本農林規格）が制定され、建築材料としての品質が保証されています。

CLTは、優れた性能と環境性能を兼ね備えた建材として、今後の建築分野でのさらなる活用が期待されています。コストや技術的な課題は残るものの、公共建築物での率先利用や技術開発、ノウAHの蓄積が進むことで、その普及は加速していくと考えられます。

関連情報

木質材料
集成材
単板積層材（LVL）
* 木造ビル

関連する団体や政府の窓口も存在し、CLTの活用促進に向けた活動が行われています。

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